日本は中東で果たす重要な役割を明確に

エブラハム・クーパー師
テッド・ゴーバー博士

     

日本は過去25年にわたり、中東で重要な役割を果たしてきたが、それは主に、ヨルダン川西岸地区とガザに住むパレスチナ人の経済・社会発展への支援を通して、なされてきた。

日本が1993年以来、公衆衛生・経済成長・農業・教育・難民支援などのプロジェクトを通してパレスチナに貢献してきた額は1700億円にものぼる。これらの重要な支援活動は、20年余にわたり多くのパレスチナ人の生活の質を向上させることを助けてきた。

それに加えてこの数年は安倍晋三首相の指導と率先の下、日本の経済的・地政学的活動は飛躍的に拡大し、それは日本とイスラエル両国の安全保障と経済利益に寄与してきた。安倍首相のヤド・ヴァシェム国立ホロコースト記念館での歴史的スピーチも、世界のユダヤ人コミュニティーと日本の間の信頼レベルを高めることを助け、中東におけるさらに大きく、かつバランスのとれた日本の役割への、期待を膨らませた。

しかし、安倍首相が近年ベンジャミン・ネタニヤフ首相に示した友好姿勢が歓迎すべきものである一方、それは、国連における日本の対イスラエル公式ポリシーとは、鋭く対立するものである。入植地、境界線論争、今も続くガザでの対立などの幾つかの問題における日本の公けの外交姿勢は、日本ともイスラエルとも価値観を共有しない政権の姿勢に、より近いものである。

安倍首相のイスラエルへのポジティブな取り組みと、日本外務省のイスラエルに対する近視眼的で時には攻撃的でさえある政治的姿勢の、際立った違いには困惑させられる。外務省は、安倍首相のユダヤ人国家イスラエルに対する新しい前向きな取り組みに関して、首相官邸からまだ説明を受けていないのだと考える者がいても、責められないだろう。

外務省のイスラエルに関する立場は、日本とイスラエルが共に民主・自由市場経済国家として、利益と価値を共有している事実と、相容れないと気づくことも重要である。例えば、発展しつつある両国の商業関係を見てみよう。最初は低調なところからスタートしたが、近年は、日本とイスラエル企業間、特にハイテク、サイバーセキュリティー、健康・観光分野での関係は大きく開花している。 “日本は中東で果たす重要な役割を明確に”の続きを読む

建国70周年を迎えたイスラエルの理解を

安倍首相は建国70周年を迎えたイスラエルを訪問し、同時にパレスチナ自治区も訪れ、日本の中立的立場を明確に示したうえで、イスラエルとパレスチナ双方に和平を働き掛けるという。

「中立的立場」という言葉は聞こえがよく、公平な立場という印象を与える。しかしそれは、双方のこれまでの行動や発言、さらには国際社会の新しい流れなどを深く理解したうえでの「中立」なのだろうか?

イスラエルは、ここ数年の日本との経済関係の拡大、日本を訪れるイスラエル人観光客の増加などが示すように、日本にとって身近な国になりつつある。しかし、かつてのアラブ産油国によるイスラエルボイコットの記憶や、日本の一部に根強いユダヤ人への偏見もあり、日本人のイスラエル理解は決して十分とは言えない。イスラエル・パレスチナ問題にしても、日本の報道にはパレスチナ寄りの傾向があり、イスラエル側の主張はあまり日本に伝わっていないのが現状だ。

日本での報道には、イスラエルがパレスチナ人の土地を占領し、パレスチナ人を抑圧しているという構図が先ずある。それに抗議するパレスチナ人をイスラエル軍が過剰な力で制圧している、という報道が一般的なものだ。しかし、それらの抗議をハマスなどの指導者が扇動していること、今回のガザのデモでは暴動化すれば死者がでることも承知で女子や子供まで駆り立ていたことなどは、あまり伝えられない。何より、これらの子供が、イスラエルやユダヤ人への憎しみを植え付け、自爆テロを賛美する教育を受けて育っていることも、日本では問題にされない。

トランプ大統領が、「国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)」に対する拠出金の支払いを留保したニュースも、彼のエルサレム首都認定に反発したパレスチナへの報復措置として報道された。そして、最大の支援国アメリカからの拠出金が凍結されたことで、パレスチナ難民への食糧、医療、教育支援などの支援活動に支障をきたし、彼らの窮状がさらに悲惨になることが強調された。しかしそれらの報道は、UNRWAが運営する学校が子供たちにイスラエルとユダヤ人への憎悪を教えていることには触れないし、国際社会からの援助資金や資材が、テロ攻撃用のトンネル建設などに流用されていることも、日本ではあまり報道されない。 “建国70周年を迎えたイスラエルの理解を”の続きを読む

BDS運動の実態

日本で唯一の「イスラエル・ユダヤ・中東・聖書」専門雑誌『みるとす』4月号に記事「BDS運動の実態」を掲載して貰いました。イスラエルとのビジネスが盛んになってきた日本も、このボイコット運動の背景を正確に理解する必要があると思います。

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先日サイモン・ウィーゼンタール・センター副館長のエブラハム・クーパー師から、「これを読んでみて」とメールが届いた。それは、パレスチナ支援サイトに掲載された記事で、ホンダがイスラエルの西岸地区で予定していたモーターサイクルレースを中止した、という内容だった。記事は「パレスチナ人は、彼らの人権を侵害するイスラエルの責任を問う世界的ボイコット・投資引き上げ・制裁(BDS)運動の成果として、歓迎している」と説明していた。

BDSは彼らのウエブサイトによると、イスラエルの占領地からの撤退とパレスチナ人の人権擁護を目的にパレスチナ人活動家が2005年に始めた運動で、欧米や日本にも支持者がいる。しかしイスラエルや米国政府そして多くのユダヤ人団体は、運動の真の目的はイスラエル国家の正当性を否定することで、パレスチナが和平交渉の場に出てくることを促しもしないとして、糾弾している。

ホンダは今回の決定を「レースに最適なコースが見当たらないため」と説明しているが、イスラエルのメディアは、BDSからの圧力が理由と伝えている。実際、決定の少し前に日本のBDS支援団体から八郷隆弘社長宛に「ホンダはパレスチナにおける違法な入植地ビジネスに加担しないでください!」と題する手紙が送られ、それが英語のサイトでも伝えられていた。手紙はレースの中止を求めるだけでなく、ホンダがイスラエルで経済活動を続ける限り、同国のアパルトヘイト政策に加担させられ続けることになる、と警告していた。

さらにその手紙には、外務省のホームページに掲載されたイスラエルに関する一文が引用されていた。

「東エルサレムを含むヨルダン川西岸におけるイスラエルの入植活動は国際法違反とされているため,それら地域に関わる経済活動(例えば、経済・金融活動、役務の提供、不動産の購入等)を行う場合は、金融上、風評上及び法的なリスクがあり得る他、そうした活動への関与が、人権侵害とされる可能性があり得ることについて,十分留意する必要がある。」

「十分留意」という言葉からは、できるだけ避けるように、或いは独自のリスクで行うように、というメッセージが受け取れる。しかし、BDS運動の実態が広く知られていない日本で、政府のこのようなアドバイスが、イスラエルでビジネスを始めようとする企業にどれほど助けになるのか、疑問だ。

今年の一月、ブルッキングス研究所からBDS運動の成果を分析する論文が発表された。それによれば、イスラエルが先端技術を生み出し、それが世界的企業の製品に組み込まれている現在、イスラエル経済へのボイコットは現実的でなく、運動の成果は出ていないという。

米国ユダヤ人協会(AJC)のデヴィッド・ハリスCEOは、感想を尋ねた筆者に、以下のように答えた。

「表面的にどのような目的を掲げようと、BDS運動は本質的に反ユダヤであり、中東で唯一の民主国家であるユダヤ人国家イスラエルのみをターゲットとし、その壊滅を目指すものです。BDS運動に加わる企業には、以下のことを考えて欲しいです。第一にそれは反ユダヤ反イスラエル運動への参加だということ、次に、多くの州が反BDS法を成立させたアメリカ国内において、その企業の評判は著しく傷つくこと、最後にその企業は、サイバーセキュリティや未来自動車、先端医療や水処理などイスラエルの最先端イノベーション技術へのアクセスを失う、ということです。」


AJCのデヴィッド・ハリスCEOと筆者

クーパー師も、カリフォルニア州政府が2016年に反BDS法を成立させた際、「BDS運動家の関心は、パレスチナ人を助けることではなくユダヤ人国家を抹殺することだけ」と証言した。今年初めアイルランドが検討していたBDS支援法案は、米政府の説得で廃案となっている。

またアメリカの大学でBDS支援学生に威嚇される事件が増えているユダヤ人学生のために、著名な弁護士でハーバードロースクールの元教授アラン・ダーシュウィッツが『ケース・アゲインストBDS』という本を出版したばかりだ。

日本企業のイスラエルへの投資は、過去5年間で20倍に増えている。外務省は、BDSに関する正確な情報に基づき、企業にはもっと適切なアドバイスを、また活動家にはBDS運動がパレスチナ人支援に繋がっていないことを啓蒙すべきではないか。

『みるとす』ウエブサイト: http://myrtos.co.jp/magazine.php

キング牧師とイスラエル

キング牧師: 非暴力と正義の勝者そしてイスラエルの友

 

エブラハム・クーパー
サイモン・ウィーゼンタール・センター副館長(グローバル活動責任者)

50年前の1968年4月4日、悲劇的に亡くなったマーティン・ルーサー・キング・ジュニアは、非暴力を通して社会に歴史的変化をもたら​すという、​真のリーダーシップの​在り方を見せた人でした​​。もし彼がもう少し長く生きていたなら、そして、もし彼のようなリーダーがもっといたなら、私たちの世界はもっと素晴らしい場所になっていたことでしょう。

私たちにとって、キング牧師は、何百年もの間アフリカ系アメリカ人に向けられた不義な差別に対して平和的な抗議で立ち向かった英雄でした。彼は、二流市民というレッテルと奴隷制に対して憎悪と暴力をもってではなく、差別をしてくる相手を愛、友情、平等と平和そして正義の心をもって、迎えようとしました。

そして、キング牧師は、銃を撃つことなく、爆弾を爆破させることなく、石ころ1つ投げることなく、アメリカの歴史における奇跡を実現させました。

しかし今、キング牧師が行った非暴力の抗議とは反対の“平和の抗議”が、ガザ地区で行われています。この抗議は、200万人以上のパレスチナ人たちを支配し、アメリカ・イスラエル・ユダヤ人に憎しみと憎悪を向けているテロリストグループ、ハマスのメンバーによって行われています。

ビデオでは、この抗議のリーダーが「パレスチナ人は血と殉教者と女と子どもで、自らの地を開放しなければならない。この戦いに、自分たちの体、命、手、すべての力をもって、勝たなければならない」と叫んでいるシーンがうかがえます。

パレスチナ人とその支援者たちの“​帰還​のマーチ”の目的は、世界で唯一のユダヤ人国家であるイスラエルの排除以外の​何もの​でもありません。彼らは、イスラエルの土地に足を踏み入れたことさえない何百万人のパレスチナ人を扇動して、ユダヤ人の国を、アラブ諸国の一国にしようとしているのです。

​いわゆる ​“​帰還​の権利”という名の下では、70年前にイスラエルに自分の先祖が住んでいたと訴えるパレスチナ人は皆、イスラエルに入り、​先祖が住んでいたという​土地の“返還”を求めること​が許されてしまいます。

“平和”と“非暴力”を訴えながら、イスラエルの国境に暴力の火を生み出そうとしているハマスとその支持者のしていることは、キング牧師の非暴力の意志を侮辱するものです。

実際に、イスラエルはガザ地区での抗議で殺された17人のパレスチナ人の内、11人をテロリストとして認定しており、また、自らが行ってきた暴力について虚言を続けているハマスでさえ、殺されたパレスチナ人の内の5人がハマスのメンバーであったことを認めています。 “キング牧師とイスラエル”の続きを読む

反ユダヤ主義(15年前の記事から)

ここ数年、「反ユダヤ主義の蔓延は第二次大戦以来最悪だ」とする声が欧米のメディアで聞かれるようになり、それを裏付ける事件も多発しています。

ユダヤ人と接する機会が少ない日本でも、根拠のない反ユダヤ主義的言論がこれまで無かったとは言えません。それらは概して、日本人が「ユダヤ人陰謀説」に魅せられやすいという傾向と無関係ではなかったと思います。

9・11の連続テロ多発事件の後の日本では、アメリカでネオコンと呼ばれたグループとユダヤ人を結びつける論評が多くみられました。

当時そのことに違和感を持った私は、数人の著名なユダヤ人の支援を得て、記事を書いたことがありました。もう15年以上前の内容ですが、国連の反イスラエル姿勢など、その後も全く解決されていません。また、これらのユダヤ人指導者たちが、一日本人の質問に誠意をもって答えてくれたことに、改めて感激します。

これからも機会を見つけて、ユダヤ人やイスラエルへの理解促進にささやかでも貢献していきたいと思います。

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