北朝鮮の非核化と人権問題

トランプ大統領は、オバマ大統領がしたように、独裁者との取引のために人権をないがしろにするべきなのか。

マーヴィン・ハイヤー師:サイモン・ウィーゼンタール・センター館長
エブラハム・クーパー師:サイモン・ウィーゼンタール・センター副館長

聖書にはこのような話がある。賢者と評されるソロモン王が、居を共にする二人の女性に言い寄られる。二人はソロモン王に、自分こそが生まれたばかりの男の赤ん坊の母親であり、もう片方の女は、生まれてすぐに死んだ赤ん坊の母親であると主張しあった。

ソロモン王は、それぞれの弁を聞いてしばらく考えたあと、このように命じた。「剣をもって来なさい。生きている赤ん坊を真っ二つに斬り、体の半分をそれぞれの女に与えなさい。」

自分の息子をもう一人の女性に盗まれたと主張する女性は「お願いです、王。赤ん坊は彼女にあげてください。斬るようなことはしないで下さい。」と求めた。しかしもう一人の女性は「赤ん坊がどちらのものであれ、斬って下さい。」と言った。

ソロモン王は、人間が持つ倫理という本能と鋭い知見から「一番目の女に、殺さずに赤ん坊を渡しなさい。彼女こそが赤ん坊の母親だ。」と言った。

ソロモン王のような智賢を兼ね備えた大統領はいない。しかし、歴代の大統領は皆、ソロモン王でも悩みこむような重大な決定を迫られたことがあった。

トランプ大統領と北朝鮮の独裁者である金正恩との間で行われた、歴史的なサミットについて考えてみよう。サミットの表向きの目標は、北朝鮮の安全保障の代わりに、平壌政府が放つ核の脅威を取り除くことであった。サイモン・ウィーゼンタール・センターを含む人権団体は、トランプ大統領は、北朝鮮における宗教の自由や悪名高き強制収容所の封鎖など、人権問題も取り上げるべきだと主張した。

活動家たちは、何百万人もの自国民の人権を踏みにじるような国に、果たしてトランプ大統領は “体制の保障”を与えてもよいのかと問うた。大統領が、サミットで金正恩の悪事を問いたださないどころか彼を褒め称えたことに、深く失望したという声もあった。

しかし公平な目で見れば、トランプ大統領だけでなく先代の大統領たちもこれと同じ、またはそれ以上に劣悪なことをしてきたのである。

バラク・オバマ大統領と当時の国務長官ジョン・ケリーは、神政政治を行うアヤトラ・ハーメネイーのイラン政権と国交を回復することが、アメリカ合衆国にとって最大の国益になるという決定を下した。核の脅威は、それによって何年かは先送りされたが、彼らはその目的のため、イスラムの宗教指導者たちが司る政治からの解放を訴えて抗議するイランの人々の声に、耳を傾けることはなかった。

オバマ政権は、外交的な目的を達成するために、世界でも類をみないほどのホロコースト否定を続け、国家規模で世界のテロリズムを支援する国を正当化し、テヘランに何十億ドルもの金を与えたのである。

オバマ大統領は、危険な行動を広げさせる代わりにイランの核開発を遅らせることが、アメリカの最大の国益になるという結論に至ったと、論じるだろう。

二〇世紀、アメリカはさらに論争になるような決定をしてきた。第二次世界大戦終結後、冷戦の始まりとともに、ヒトラーのナチス政権を倒した以前の同盟国は、次々と敵へと変わっていた。1946年にドイツの戦争指導者に対して行われたニュルンベルク裁判のあと、モスクワ、ロンドン、ワシントンはナチに対する裁判を行おうとしなかった。自国にとって有益と思われるナチ党員たちを取り込むことで忙しかったからだ。リヨンの虐殺者と呼ばれたクラウス・バルビーをアメリカはフランスから匿い、共産主義者を探し出す仕事をさせていた。

自国の安全がソ連からの脅威に晒されていると信じ、アメリカ合衆国は少なくとも88人の悪名高いナチス・ドイツの科学者たちを入国させた。これらの科学者たちのなかには、ロケット開発のために奴隷労働者を使った者や、強制収容所の被害者を神経ガスの実験に使った者もいた。我が国の諜報機関は、これらの戦争犯罪者について司法省に報告せず、ある場合は彼らの戦時犯罪を司法省から隠してさえいたのである。しかし冷戦の真っ只中、もしそのようなことをしなければ、ソ連の更なる脅威にさらされていたであろう。

占領下の日本でアメリカは、悪名高い満州の731部隊で戦争捕虜たちに麻酔なしで行っていた人体実験の結果を共有させてもらう代わりに、ソビエトから戦争犯罪人である石井四郎中将を匿った。

では、トランプ大統領は“安全保障”のために、このような歴史や歴代の大統領たちが行ってきたことを繰り返すべきなのか。それとも、ソロモン王が見せたように、核の脅威を取り除き、同時に人権も保障できるような道があるのだろうか。

実はアメリカは北朝鮮よりもさらに脅威的だった相手に対して、人権を守りつつ、平和の構築を成し遂げたことがある。冷戦時代、ロナルド・レーガン大統領と当時の国務長官ジョージ・シュルツは、核開発競争と人権問題を切り離して見るのではなく、ソ連にいたユダヤ人の自由についての問題をリトマス試験として使い、ソ連の核廃棄への意図を推し量った。最終的には人権が勝ち残り、一発の銃声が響くことなく共産党のシステムは崩壊していった。

アメリカ合衆国は、金正恩の“魅力攻勢”に、融和ではなく検証可能な変化を求めて取り組むべきだ。核試験施設の一か所が爆破されるのを目撃することは重要である。しかし同様に重要なのは、金正恩の強制収容所が閉鎖されることだ。この二つが同時に成し遂げられた時、世界は初めて、朝鮮半島が、平和的統一とすべての人々に希望溢れる未来を拓く道を歩みつつあると、安心することができるだろう。

(日本語訳:杉中亮星)

オリジナルは米議会関係者向け雑誌『 The Hill 』に6月17日掲載

ヘイリー米国連大使のスピーチ

国連安全保障理事会での中東における暴力行為に関するスピーチ

アメリカ合衆国国連大使ニッキー・ヘイリー
ニューヨーク市
2018年5月15日

今日の会合は、中東における暴力行為に関して議論を行うために召集されました。私たちは皆、中東で起きている衝突を懸念しています。アメリカ合衆国は人命が失われたことに深く心を痛めます。しかし、この地域全域において数多くの暴力が広がっています。また、この安全保障理事会では往々にしてダブルスタンダードがまかり通り、今日もこうして時間外の会合を持っていることに言及しておきます。

先週、イラン軍がシリアからロケットを発射し、ゴラン高原のイスラエル陣地を攻撃しました。これは無謀な挑発行為であり、その拡大は阻止されなければなりません。それは、この会合で私たちが議論すべき暴力行為の一例です。また先週、イランが後押しているイエメン内の勢力が、サウジアラビアに対してロケットを発射しています。それは初めての攻撃ではありませんでした。

これもまた、この安全保障理事会において私たちが議論しなければならない、この地域での暴力行為です。またこの数日、イランの支援を受けるハマスが、イスラエルの警備隊とインフラ施設を攻撃するように扇動していました。これも、私たちが目を向けなければならない問題の一つです

これらの暴力行為の全てを繋いでいるのは、この地域に不安定をもたらすイラン政府の行動なのです。イランは自国民の基本的人権を侵害する一方で、中東全域における暴力を拡大しようとしています。

アメリカ合衆国は、中東におけるこれらの暴力行為について、ぜひ議論したいと思っています。私たちは、互いが協力し合い、これらの衝突に終止符が打てるような話し合いを行いたいと考えています。安全保障理事会では、シリアの不安定化を作り出し、イエメンにおける暴力行為の扇動、ガザにおけるテロリストへの支援やレバノンでの危険で違法な武器の備蓄などに加担しているイランについて、ほとんど議論がなされていません。

しかしある人々にとっては、今日の会合は、中東におけるこれらの暴力行為に関して話し合うために開かれたものではありません。それは、昨日のアメリカ合衆国エルサレム大使館開設に伴って発生したとされる衝突について、話し合うために召集されました。大使館の開設が暴力行為の理由だったと考えている人々がいるのです。それはいったいどのように正当化されるというのでしょう?

トランプ大統領が昨年12月に大使館移転の決定を発表したときに言及した通り、大使館の位置は、エルサレム内にイスラエルの主権や国境に関して特別な境界線を引くものではありませんし、係争中の境界線を解決するものでもありません。イスラエルの聖地に影響を与えるものでもありません。また今後、和平合意でいかなる交渉がなされようと、当事者の立場を前もって縛るものでもありません。平和への展望をいかなる意味でも疎外するものではありません。それでもなお、大使館の移転が暴力行為を起こさせたと言い張る人々がいます。

しかし私たちが忘れてならないことは、ハマスが、アメリカ合衆国が大使館を移転すると決定する前から、何年にも渡り暴力行為を扇動していたことです。

数日前から、複数のメディアがガザにおけるハマスの扇動行為について報道してきました。報道によると、ハマスは、地図やソーシャルメディアを通して、デモの参加者がフェンスを越えたあと、最短でイスラエル側の村落に到着できるルートを公開していました。また、ハマスがスピーカーを用いて、デモの参加者に、イスラエル兵は撤退したから(実際はしていないにも拘わらず)フェンスを突破するようにと叫んでいたこともメディアが報道しています。ハマスのメンバーは「もっと近づけ、もっとだ」と群衆をフェンスに向かうよう、扇動していました。

燃料や食料、医療器具などの輸送に使われるガザへの最大の関門所ケレムシャロムも、ハマスは攻撃しました。彼らはそれほどまでに、ガザの人々が苦境に晒されることを気にかけていなかったのです。ハマスは、火炎瓶を凧に括り付けてイスラエルに投げ飛ばし、できる限り大きな破壊を生み出そうとしています。テロリストの一人は、なぜ卍マークを凧に書いているのか尋ねられると「ユダヤ人はヒトラーの話になると頭が狂うんだ」と答えていました。

このようなことが、ガザの人々を危険に晒しているのです。間違ってはいけません。ハマスは、昨日の衝突の結果に満足しています。

この安全保障理事会に出席している同僚の皆さんにお伺いしたいです。このような行為が自分の国境で行われているとしたら、見逃すでしょうか?見逃す国はないでしょう。イスラエルは、この会合に出席しているどの国がしたであろうよりも、小規模の力で対応しました。実際、この会合に参加している数か国は、その過去の記録からして、より強硬な力をもって対応していたでしょう。

アメリカ合衆国大使館の所在地がガザでの衝突と関係があるという考えは、明らかな間違いです。そうではなく、この衝突は、いかなる場所においてもイスラエルの主権を拒絶する組織から生まれたものです。国連の加盟国であるイスラエルを破壊しようと考えることは、明らかに違法であり、それを糾弾するのならともかく、この安全保障理事会で時間を割いてまで議論すべきことではありません。

昨日の大使館開設は、アメリカ合衆国の国民にとって祝福すべき出来事でした。大使館をエルサレムに移すことは正しいことです。アメリカ合衆国の人々の意志を表現したものです。大使館をどこに置くかを決定する権利は、その国の主権を象徴するものです。この権利は、この会合に参加している全ての国が持っているものです。また、大使館の移転は、エルサレムがイスラエルの首都であるという現実を認める重要なものです。イスラエルが建国してから、エルサレムは首都としてあり続け、また、ユダヤ人にとっての何千年前からの首都でもあります。エルサレムがイスラエルの首都でなくなる和平協定が成立することはあり得ません。この現実を認めることこそが、平和達成の可能性を高める(低めるのではなく)のです。

アメリカ合衆国は、和平交渉と和平協定が進むよう全面協力するつもりです。全ての人々が、宗教の違いに拘わらずエルサレムで祈ることができる平和、全ての人の権利が尊重され、全ての人に明るい未来が照らされる平和、そのような平和こそが私たちの求めるものです。そしてこの平和は、多くの人々が認めようとしない今の現実に根差したものであるとき、初めて実現されるのです。アメリカ合衆国の昨日の行為は、現実の認識と平和への願いを促すものでした。そして私たちは、世界がこの現実的で、確かで、永続する平和を作るための道を共に歩んでいけることを心から願っています。

最後に、イスラエルが建国70周年を迎えたことに触れたいと思います。私はアメリカ合衆国の人々を代表し、この国連安保理事会の場で、イスラエルの友人たちが独立国家として70年を迎えたという顕著な成功を、祝福したいと思います。誇り高きイスラエルの人々は貧しく危機的な状況からスタートし、世界の光になるという預言者イザヤの夢を実現しました。次の70年が、力と希望と平和に包まれたものでありますように。

ありがとうございました。

(日本語仮訳:杉中亮星)

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*特筆すべき点(そして正確に報道されてこなかった点)は、今回の米国大使館移転が、これまでも将来も間違いなくイスラエルの首都である西エルサレムになされたもので、東エルサレムを将来の首都と宣言しているパレスチナとの今後の和平交渉において、双方の立場を前もって縛るものではないということです。

建国70周年を迎えたイスラエルの理解を

安倍首相は建国70周年を迎えたイスラエルを訪問し、同時にパレスチナ自治区も訪れ、日本の中立的立場を明確に示したうえで、イスラエルとパレスチナ双方に和平を働き掛けるという。

「中立的立場」という言葉は聞こえがよく、公平な立場という印象を与える。しかしそれは、双方のこれまでの行動や発言、さらには国際社会の新しい流れなどを深く理解したうえでの「中立」なのだろうか?

イスラエルは、ここ数年の日本との経済関係の拡大、日本を訪れるイスラエル人観光客の増加などが示すように、日本にとって身近な国になりつつある。しかし、かつてのアラブ産油国によるイスラエルボイコットの記憶や、日本の一部に根強いユダヤ人への偏見もあり、日本人のイスラエル理解は決して十分とは言えない。イスラエル・パレスチナ問題にしても、日本の報道にはパレスチナ寄りの傾向があり、イスラエル側の主張はあまり日本に伝わっていないのが現状だ。

日本での報道には、イスラエルがパレスチナ人の土地を占領し、パレスチナ人を抑圧しているという構図が先ずある。それに抗議するパレスチナ人をイスラエル軍が過剰な力で制圧している、という報道が一般的なものだ。しかし、それらの抗議をハマスなどの指導者が扇動していること、今回のガザのデモでは暴動化すれば死者がでることも承知で女子や子供まで駆り立ていたことなどは、あまり伝えられない。何より、これらの子供が、イスラエルやユダヤ人への憎しみを植え付け、自爆テロを賛美する教育を受けて育っていることも、日本では問題にされない。

トランプ大統領が、「国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)」に対する拠出金の支払いを留保したニュースも、彼のエルサレム首都認定に反発したパレスチナへの報復措置として報道された。そして、最大の支援国アメリカからの拠出金が凍結されたことで、パレスチナ難民への食糧、医療、教育支援などの支援活動に支障をきたし、彼らの窮状がさらに悲惨になることが強調された。しかしそれらの報道は、UNRWAが運営する学校が子供たちにイスラエルとユダヤ人への憎悪を教えていることには触れないし、国際社会からの援助資金や資材が、テロ攻撃用のトンネル建設などに流用されていることも、日本ではあまり報道されない。

また日本人の国連信望からか、UNRWA自体の問題点もめったに語られない。イスラエルの独立戦争(実際は国連のパレスチナ分割決議を拒絶したアラブ諸国が誕生したばかりのイスラエルに攻め込んだ)で発生したパレスチナ難民を救済するという短期目的で1949年にUNRWAが設立されたが、難民数は当初の約70万人から現在は500万人に膨れ上がり、UNRWAの支援で暮らしている。そして主要国からの巨額の寄付で賄われる経費の使われ方は、不透明性が度々指摘されている。

70年を経て、なぜ子供や孫の代まで難民であり続なければならないのかを解説する日本の報道はあまりない。そして、同じ時期にアラブ諸国から追放されたほぼ同数のユダヤ人難民を建国直後の貧しいイスラエルが吸収し、その中から国の発展に尽くした多くの人材が輩出されたことも日本ではあまり知られていない。20世紀においては2回の世界大戦をはじめ、多くの人々が戦禍にさらされたが、日本人を含めそのほとんどは苦難を乗り越え、何とか建設的に生きてきた。しかしパレスチナに限り、3代目に至るもまだ難民でいることの原因は何なのか。イスラエルが何度か提供した和平案を受け入れ、テロ行為に費やされる人的資源や国際社会からの支援を、健全な国家の建国に役立てることこそが求められていたのではないか。2005年にイスラエル軍が撤退した時、ガザは中東のシンガポールになれたはずなのに、ハマスが選んだのはイスラエルへのロケット攻撃で、その後もテロ活動は続いた。因みに、パレスチナ政府は、イスラエル人に対するテロ活動に関わった者(死んだ場合はその遺族)に、生涯にわたって給料を支払っており、その年度総額はアメリカ政府が毎年支給してきた支援金300億円とほぼ同額になると報告されている。アメリカ議会は最近、そのような用途に使われる支援を停止する法案を通過させた。

また日本では、イスラエルのボイコットを目指すBDS(ボイコット・投資引き上げ・制裁)運動も、あまり知られていない。この運動は、イスラエルの占領地からの撤退とパレスチナ人の人権擁護を目的としてパレスチナ人活動家が2005年に始めたものだ。南アフリカのアパルトヘイトを終焉させた運動をモデルにしたとし、イスラエルとビジネスや学術・文化交流をしようとする企業やグループに圧力をかける。最近では、ホンダがヨルダン川西岸地区で予定していたモーターバイクのレースを中止したが、BDS活動家は、「パレスチナ人の人権を侵害するイスラエルの責任を問う世界的BDS運動の成果」として歓迎した。

日本政府は、BDS運動に関して正式な立場はとっていないが、イスラエルや米国政府そして多くのユダヤ人団体は、イスラエル国家そのものの違法性を訴えることが運動の真の目的だとして、糾弾している。米国ユダヤ人協会(AJC)理事長で、毎年訪日して安倍首相にも面会しているデビッド・ハリス氏は、次のように私に書いてきた。

「表面的にどのような目的を掲げようと、BDS運動は本質的に反ユダヤであり、中東で唯一の民主国家であるユダヤ人国家イスラエルのみをターゲットとし、その壊滅を目指すものです。BDS運動に加わる企業には、以下のことを考えて欲しいです。第一にそれは反ユダヤ反イスラエル運動への参加だということ、次に、多くの州が反BDS法を成立させたアメリカ国内においてその企業の評判は著しく傷つくこと、最後にその企業は、サイバーセキュリティや未来自動車、先端医療や水処理などイスラエルの最先端技術へのアクセスを失う、ということです。」

「イスラエルの壊滅」というのはユダヤ人側の誇張ではない。ガザを実効支配するハマスの憲章は長い間それを謳ってきており、昨年その文言そのものは削除したものの、「(ヨルダン)川から(地中)海までパレスチナの地を開放する(すなわちイスラエルの壊滅)」という姿勢に変わりはない。テロ行為への過剰な対応や西岸での入植活動など、イスラエル側にも問題とされる行動はあるが、基本的問題は、パレスチナがユダヤ人国家としてのイスラエルを認めない、という一点にある。日本が「中立」という政策を取るにしても、この状況を正確に把握したうえで、国民にも説明できるような政策であってほしい。また、ニュースメディアも、国民が判断できるよう、可能な限りの情報を正確に伝えるべきだと思う。

また国際社会の新しい流れにも、目を向ける必要があるのではないか。トランプ大統領のエルサレム首都宣言、それに対して大きな抗議活動を起こすこともなかった湾岸諸国の動向、サウジアラビアの宗教指導者が初めてホロコースト否定を糾弾する声明を発表したこと、続いて同国のムハンマド皇太子がアラブ指導者として初めて ”ユダヤ人が祖先の地に住む権利” を認めたこと、米国務省の最新報告書がヨルダン川西岸やガザを占領地と表記しなかったことなど、十年一日の「中立」政策でよいのかと思わせられる展開が続いているからだ。

朝鮮半島で大きな動きが起きているように、中東でもそれは起きている。経済関係の深まりとともに、人的交流も益々増えていくであろうイスラエルに、日本はどのようなアプローチをすべきなのか。中立と宣言するのは簡単なことだが、それでは真の理解に繋がらない。建国70周年という節目に、日本人は先ず、イスラエルの歴史(特に建国の歴史)をもっと学ぶことが必要なのではないか。国連決議がイスラエルを非難してきたという事実のみを真に受けず、アラブ・イスラム国が数を頼みに「シオニズムは人種差別の一形態である」と宣言する決議を採択したのも、今でも総会やユネスコで反イスラエル決議を採択しているのも、国連であることを理解しなければならない。東エルサレムを含む西岸地域は「占領地」と呼ぶよりも「係争中の地域」と呼ぶのが国際法上正しいという説もある。歴史を正確に知ることはなによりも重要なのだ。

筆者は最近、日本でも邦訳が出た『イスラエル―民族復活の歴史 』の著者で、イスラエルのシャーレム大学副学長ダニエル・ゴーディス氏とメールを交換した。ゴーディス氏は米国とイスラエルの主要新聞に頻繁に執筆しており、発言力も大きい人物だ。公平な立場から簡潔に纏められたこの著書は、指導層への批判が許されないパレスチナと違い、自国政策への批判が世界で最も自由に時には激しく行われるイスラエルで、良書として認められた。そして、米国で最古のユダヤ関連書籍紹介団体から、2016年度最優秀書に選ばれている。

  

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ゴーディス氏が私に送ってきた言葉には、イスラエルをもっと知って欲しいという願いがあふれていた。

「日本の長い歴史や文化を理解することなく、日本政府や日本国民の行動を理解することはできないでしょう。イスラエルも同じです。日本の方々には、日々の新聞の見出しを追うだけでなく、ユダヤ人の長い歴史と遺産、そして(祖先の地に帰るという)シオニズムが何千年にもわたるユダヤ人の夢と切望であったことを、理解してほしいと思います。」

私が個人的に知るユダヤ系の人々は、誰一人反パレスチナではない。彼らの全員が、パレスチナの人々に真の平和と健全な暮らしをもたらすために尽力するパレスチナ人指導者が現れて欲しいと、口を揃える。一方パレスチナ支援活動を続ける日本人の努力も尊いものだ。イスラエル・パレスチナ問題に関し、歴史を学び、正確な情報を得て、平和構築に貢献できるような日本であってほしい。

徳留絹枝

BDS運動の実態

日本で唯一の「イスラエル・ユダヤ・中東・聖書」専門雑誌『みるとす』4月号に記事「BDS運動の実態」を掲載して貰いました。イスラエルとのビジネスが盛んになってきた日本も、このボイコット運動の背景を正確に理解する必要があると思います。

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先日サイモン・ウィーゼンタール・センター副館長のエブラハム・クーパー師から、「これを読んでみて」とメールが届いた。それは、パレスチナ支援サイトに掲載された記事で、ホンダがイスラエルの西岸地区で予定していたモーターサイクルレースを中止した、という内容だった。記事は「パレスチナ人は、彼らの人権を侵害するイスラエルの責任を問う世界的ボイコット・投資引き上げ・制裁(BDS)運動の成果として、歓迎している」と説明していた。

BDSは彼らのウエブサイトによると、イスラエルの占領地からの撤退とパレスチナ人の人権擁護を目的にパレスチナ人活動家が2005年に始めた運動で、欧米や日本にも支持者がいる。しかしイスラエルや米国政府そして多くのユダヤ人団体は、運動の真の目的はイスラエル国家の正当性を否定することで、パレスチナが和平交渉の場に出てくることを促しもしないとして、糾弾している。

ホンダは今回の決定を「レースに最適なコースが見当たらないため」と説明しているが、イスラエルのメディアは、BDSからの圧力が理由と伝えている。実際、決定の少し前に日本のBDS支援団体から八郷隆弘社長宛に「ホンダはパレスチナにおける違法な入植地ビジネスに加担しないでください!」と題する手紙が送られ、それが英語のサイトでも伝えられていた。手紙はレースの中止を求めるだけでなく、ホンダがイスラエルで経済活動を続ける限り、同国のアパルトヘイト政策に加担させられ続けることになる、と警告していた。

さらにその手紙には、外務省のホームページに掲載されたイスラエルに関する一文が引用されていた。

「東エルサレムを含むヨルダン川西岸におけるイスラエルの入植活動は国際法違反とされているため,それら地域に関わる経済活動(例えば、経済・金融活動、役務の提供、不動産の購入等)を行う場合は、金融上、風評上及び法的なリスクがあり得る他、そうした活動への関与が、人権侵害とされる可能性があり得ることについて,十分留意する必要がある。」

「十分留意」という言葉からは、できるだけ避けるように、或いは独自のリスクで行うように、というメッセージが受け取れる。しかし、BDS運動の実態が広く知られていない日本で、政府のこのようなアドバイスが、イスラエルでビジネスを始めようとする企業にどれほど助けになるのか、疑問だ。

今年の一月、ブルッキングス研究所からBDS運動の成果を分析する論文が発表された。それによれば、イスラエルが先端技術を生み出し、それが世界的企業の製品に組み込まれている現在、イスラエル経済へのボイコットは現実的でなく、運動の成果は出ていないという。

米国ユダヤ人協会(AJC)のデヴィッド・ハリスCEOは、感想を尋ねた筆者に、以下のように答えた。

「表面的にどのような目的を掲げようと、BDS運動は本質的に反ユダヤであり、中東で唯一の民主国家であるユダヤ人国家イスラエルのみをターゲットとし、その壊滅を目指すものです。BDS運動に加わる企業には、以下のことを考えて欲しいです。第一にそれは反ユダヤ反イスラエル運動への参加だということ、次に、多くの州が反BDS法を成立させたアメリカ国内において、その企業の評判は著しく傷つくこと、最後にその企業は、サイバーセキュリティや未来自動車、先端医療や水処理などイスラエルの最先端イノベーション技術へのアクセスを失う、ということです。」


AJCのデヴィッド・ハリスCEOと筆者

クーパー師も、カリフォルニア州政府が2016年に反BDS法を成立させた際、「BDS運動家の関心は、パレスチナ人を助けることではなくユダヤ人国家を抹殺することだけ」と証言した。今年初めアイルランドが検討していたBDS支援法案は、米政府の説得で廃案となっている。

またアメリカの大学でBDS支援学生に威嚇される事件が増えているユダヤ人学生のために、著名な弁護士でハーバードロースクールの元教授アラン・ダーシュウィッツが『ケース・アゲインストBDS』という本を出版したばかりだ。

日本企業のイスラエルへの投資は、過去5年間で20倍に増えている。外務省は、BDSに関する正確な情報に基づき、企業にはもっと適切なアドバイスを、また活動家にはBDS運動がパレスチナ人支援に繋がっていないことを啓蒙すべきではないか。

『みるとす』ウエブサイト: http://myrtos.co.jp/magazine.php

キング牧師とイスラエル

キング牧師: 非暴力と正義の勝者そしてイスラエルの友

 

エブラハム・クーパー
サイモン・ウィーゼンタール・センター副館長(グローバル活動責任者)

50年前の1968年4月4日、悲劇的に亡くなったマーティン・ルーサー・キング・ジュニアは、非暴力を通して社会に歴史的変化をもたら​すという、​真のリーダーシップの​在り方を見せた人でした​​。もし彼がもう少し長く生きていたなら、そして、もし彼のようなリーダーがもっといたなら、私たちの世界はもっと素晴らしい場所になっていたことでしょう。

私たちにとって、キング牧師は、何百年もの間アフリカ系アメリカ人に向けられた不義な差別に対して平和的な抗議で立ち向かった英雄でした。彼は、二流市民というレッテルと奴隷制に対して憎悪と暴力をもってではなく、差別をしてくる相手を愛、友情、平等と平和そして正義の心をもって、迎えようとしました。

そして、キング牧師は、銃を撃つことなく、爆弾を爆破させることなく、石ころ1つ投げることなく、アメリカの歴史における奇跡を実現させました。

しかし今、キング牧師が行った非暴力の抗議とは反対の“平和の抗議”が、ガザ地区で行われています。この抗議は、200万人以上のパレスチナ人たちを支配し、アメリカ・イスラエル・ユダヤ人に憎しみと憎悪を向けているテロリストグループ、ハマスのメンバーによって行われています。

ビデオでは、この抗議のリーダーが「パレスチナ人は血と殉教者と女と子どもで、自らの地を開放しなければならない。この戦いに、自分たちの体、命、手、すべての力をもって、勝たなければならない」と叫んでいるシーンがうかがえます。

パレスチナ人とその支援者たちの“​帰還​のマーチ”の目的は、世界で唯一のユダヤ人国家であるイスラエルの排除以外の​何もの​でもありません。彼らは、イスラエルの土地に足を踏み入れたことさえない何百万人のパレスチナ人を扇動して、ユダヤ人の国を、アラブ諸国の一国にしようとしているのです。

​いわゆる ​“​帰還​の権利”という名の下では、70年前にイスラエルに自分の先祖が住んでいたと訴えるパレスチナ人は皆、イスラエルに入り、​先祖が住んでいたという​土地の“返還”を求めること​が許されてしまいます。

“平和”と“非暴力”を訴えながら、イスラエルの国境に暴力の火を生み出そうとしているハマスとその支持者のしていることは、キング牧師の非暴力の意志を侮辱するものです。

実際に、イスラエルはガザ地区での抗議で殺された17人のパレスチナ人の内、11人をテロリストとして認定しており、また、自らが行ってきた暴力について虚言を続けているハマスでさえ、殺されたパレスチナ人の内の5人がハマスのメンバーであったことを認めています。

キング牧師は、信仰を心の癒しの源と考えていました。彼はまた、“正義が川のように流れ下り、公正が力強い急流となって流れ落ちる”と語ったアモスなどの預言者たちの言葉を重んじていました。

牧師は、人種と宗教の間の架け橋だけでなく、平和と道徳に基づいた繋がりへの梯子をも作りました。彼にとって、非暴力こそが手段でした。そして、私たちのために自らの命をもってして、歴史の危難の道を歩みました。

またキング牧師は、マハトマ・ガンディーの サティヤーグラハ/非暴力抵抗運動の思想をアメリカ全土に広げていきました。 キング牧師とマハトマ・ガンディーは、私たちの時代において、変化を求めるすべての者に大きな影響を与えています。

牧師は、アメリカの象徴であるだけでなく、ユダヤ人にとっても英雄になりました。彼は、ユダヤ人の権利を訴える他のリーダーよりも先に、ソ連で迫害されているユダヤ人のために声を上げていました。

キング牧師は暗殺の10日前にも、ラビが集う会合にてこのように宣言しています。

「何のためらいなく言いましょう。イスラエルは、民主主義の下で私たちがどんなことができるかを教えてくれる最高の手本になってくれました。砂漠の地も、民主主義と友情のオアシスになることを示してくれたのです。イスラエルのための平和とは安全を意味します。そしてその安全は必ず実現されなければならないのです。」

リンカーン大統領が奴隷解放宣言をした1世紀後の1963年8月28日、キング牧師は、ワシントンのリンカーン記念堂の前で歴史に残るあの“I Have a Dream”のスピーチを行いました。

リンカーン大統領とキング牧師の夢は未だ完全には実現されていません。私たちと将来の世代はキング牧師の姿を胸に刻まなければいけません。ユダヤ人が、預言者として一度も約束の地に足を踏み入れることなくこの世を去ったモーセの姿を胸に刻むように。

キング牧師と同じく、モーセの夢も果たされていません。彼らの夢を追い求めるために、私たちは次の世代に教える必要があります。憎悪ではなく、愛と正義と非暴力の道を歩もうとするリーダーとともに歩む必要があるということを。

(日本語訳:杉中亮星)