トランプ大統領のエルサレム首都宣言

トランプの大胆な行動が、パレスチナをついに交渉の席につかせるかも

エブラハム・クーパー (サイモン・ウィーゼンタール・センター副館長)

トランプ大統領はパレスチナ自治政府指導者に明確なメッセージを送りました。イスラエルとの和平交渉に取り組もうとも、お互いに妥協をしようともせず、アメリカを、巨額の援助金を引き出すためのATMとして扱うな、というものです。

トランプ大統領のこのメッセージは、明らかにパレスチナ指導者とその支持者たちを動揺させました。

しかし、もしかすると、トランプ大統領の大胆で通常とは違うこのメッセージが、ショック療法のように作用して、パレスチナとイスラエルが新たな交渉を始めるきっかけになるかもしれません。もちろん実際にそうなるかは予想もできませんが、もしそれが起これば、大統領の過去の政策からの決別は、永遠に停滞し続けるかとも見える“和平プロセス”の歴史的転換点として、記憶されるかもしれないのです。

米国務省によると、アメリカは1994年から国際開発支援として、パレスチナに52億ドル(約5880億円)以上を提供しており、2016年にも、290百万ドル(約330億円)を供与しました。

トランプ大統領は明らかに、聖地(エルサレム)における現状を受け入れるつもりはないようです。

アメリカはまた、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)にも何十億ドルもの拠出金を提供してきました。この機関は1949年から、中東の数か国に離散したパレスチナ“難民”を支援していますが、2016年だけでも、アメリカ国民の税金から355百万ドル(約400億円)が拠出されています。また、55百万ドル(約60億円)が治安維持の経費として、追加でパレスチナに提供されています。

“難民”という用語には、70年前にイスラエルが独立したとき、その地を離れた人々の子どもや孫やひ孫たちが含まれています。

トランプ大統領は火曜日、「私たちはパレスチナ人たちに毎年何十億ドルものお金を支払いながら、感謝も尊敬もされない。彼らは、とっくに成立しているべきイスラエルとの平和条約を交渉することさえ、望んでいないのだ。パレスチナ人が和平に取り組もうとしないのに、どうして私たちは彼らに大金を払い続けなければならないのか」とツイートしました。

トランプ大統領は先月12月、エルサレムをイスラエルの首都として認めるという発表をし、また国連大使のニッキー・ヘイリー氏が国連への分担金カットを示唆しました。パレスチナへの支援金についてのツイッターはこのような出来事から続けて発せられたものです。

このようなコメントの結果、多くの政府、外交官、評論家(イスラエル人も含め)は、トランプ大統領は沈みゆく難破船の船長のようだと言うようになりました。

トランプ大統領を批判する人々は、彼のこのような無鉄砲な行動が、中東における和平プロセスと、ユダヤ人とパレスチナが二国家として平和裏に共存するという解決へのかすかな希望も、消し去ってしまうと主張します。

さらにもっと深刻な問題として、大統領の批判者は、アメリカがパレスチナへの支援金をカットすれば、資金不足に陥いったパレスチナ自治政府が崩壊する恐れがあると、言います。そうなればイスラエルは、何百万人ものパレスチナ人を支配するという、望みもしない大きな負担を抱え込むことになってしまうというのです。

しかし中東に関する限り、これまでの通常の知恵は、二国家共存という捉まえにくい解決法に、あまり進歩をもたらすことはありませんでした。逆に、汚職が蔓延するパレスチナ自治政府に毎年支援金が流れていくという状況を作りだし、それを維持する結果になりました。

また、こうしたアメリカの支援金は、テロリスト集団ハマスがガザで権力を掌握していることを問題視せず、無責任な国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を、2万5千人ものパレスチナ人に賃金を払う最大の雇用主にしてきました。

国連人権理事会やユネスコ、国連総会も全て、イスラエルを卑下し悪者扱いする国々に乗っ取られてきました。

また、国連とその関連組織は、イスラエルはユダヤ人が3千年にもわたって住んできた土地であり、キリスト教が生まれた土地であるという歴史を否定しました。これは、コロンブスやヨーロッパ人がアメリカへ上陸したずっと後に、ネイティブアメリカンがやってきたと言っているようなものです。

トランプ大統領のエルサレム首都宣言は、アラブ人やイスラム教徒による大規模な抗議、さらには新たなインティファーダを引き起こすだろうと、予想されました。しかし実際には、それを起こそうとパレスチナ・ヒズボラ・イラン・モスレム同胞団などが全力を尽くしたにも拘わらず、起きませんでした。

発生した抗議は大きなものではありませんでした。なぜなら、パレスチナの問題はアラブ諸国の優先​課題​からもはや外れているからです。例えば、エジプトや湾岸諸国は​、彼らの生存を脅かしかねないイランの脅威から目を離すことができません。​

イランの脅威以外にも、サウジアラビアは​、​世界がアラブ石油への依存を減らす中、​若い世代の雇用を作り出すための​新しい経済計画​に取り掛かっています。これらはすべて、イスラエルの躍動的スタートアップ経済が生み出す機会に乗り遅れたくない、という新しいシグナルなのです。​

トランプ大統領はエルサレムに関する​スピーチで​、国境や主権については触れませんでした。即ち彼は、ユダヤ教徒・キリスト教徒・イスラム教徒の聖地が集まる東エルサレムの旧市街地が、最終的にイスラエルの一部となるのか、将来のパレスチナ国家の一部となるのかに関しては、口出ししなかったのです。

しかし、トランプ大統領は2つのメッセージをパレスチナ人たちに送りました。

1つ目は、いまの現状では、和平へのプロセスは進まないということ。2つ目は、トランプ大統領が今行っていることが気にくわないのであれば、自分たちでイスラエルとの交渉に取り組むべきだということです。

そして、パレスチナへの支援金カットを示唆しながら、トランプ大統領は今もう一つメッセージを送っています。

現在のパレスチナ​自治​政府の予算から、​(米議会の抗議にも拘らず)​344百万ドル(約390億円)ものお金が​、​イスラエル民間人​やタイラー・フォース[注1]を含むアメリカ人を襲ったり殺害したテロリストの家族​への​報奨金として、計上されています​。これは毎年パレスチナ​が国際社会から受け取る​支援金の、半分の額にのぼります。アメリカは、​これ以上パレスチナのテロリスト活動を支援​したくありません。​

トランプ大統領はまた、中東問題解決の​ために​創設されたものの今となっては明らかにそれを阻害している、​国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)​へのアメリカの多額の拠出金についても​、​問いを投げかけるかもしれません。

アメリカから大量に支援金が流れ込んでくる限り、82歳の​アッバース​大統領​は、イスラエルと平和を築くために歩み寄ることはないでしょう。

アッバース​大統領​は2005年に、2009年までの任期​で​選ばれました。しかし​彼は決して​大統領の座を離れようとせず、新たな選挙を行おうともしません。彼が和平実現のために何もしなくても、アメリカからの支援金を徴収し続けられる限り、彼が変わることを求めようとしても無駄に終わるだけです。

しかし、​たぶん​トランプ大統領のツイートは、アッバース大統領へ向けられたものではないでしょう。それはおそらく、現状にも指導者にも見放されていることを知り尽くしているパレスチナの次世代を、奮い立たせるためだったのかもしれません。​

[注1]ウエストポイント陸軍士官学校を卒業し、アフガニスタンやイラクでの軍務の後、ヴァンダービルト大学ビジネススクールの学生としてイスラエルに研修旅行に来ていたタイラー・フォース氏は、2016年3月8日、パレスチナ人テロリストに刺殺された。パレスチナ自治政府は、一般パレスチナ人平均収入の数倍の報奨給付金を、そのテロリストの家族に毎月支給している。

(翻訳;杉中亮星)

メラメド氏と表彰されました。

 

先日、80年代から90年代にかけて10年近く家族とともに住んでいたシカゴに、娘と旅しました。ユダヤ系人権団体サイモン・ウィーゼンタール・センターがシカゴで開催したイベントで、「勇気のメダル」という賞を授与されたからです。



受賞挨拶、センター館長のマーヴィン・ハイヤー師と副館長のクーパー師と

当日のメインゲストで、センターの国際指導者賞を受けたのは、シカゴ・マーカンタイル取引所の名誉会長で、杉原ビザで救われたリオ・メラメド氏(85歳)でした。

このような形で彼と再会するとは、26年前彼に初めて会った時は想像さえしていませんでした。1991年の夏、日本のあるビジネス雑誌の依頼で、私は、彼にインタビューをすることになりましたが、先物取引のことなど全く分からないまま、何とかなるかと彼のオフィスを訪ねました。でもその出会いは、思いもかけない展開に繋がっていったのです。彼が杉原ビザで救われたことが分かったからです。当時は杉原千畝氏の人道的行為はまだあまり知られていなかったのですが、私はユダヤ人と結婚した友人から偶然聞いて知っていました。。

メラメド氏との出会いで、ユダヤ人の歴史、特にホロコーストに興味を掻き立てられた私は、その後ロサンゼルスに引っ越してから知り合ったサイモン・ウィーゼンタール・センター副館長エブラハム・クーパー師の励ましもあり、1997年にホロコーストに関するインタビュー集「忘れない勇気」を出版しました。メラメド氏にも改めてインタビューし、彼のストーリーもその本の一章となりました。

リオ・メラメド氏と

ホロコーストの教訓を伝える人々にインタビューする過程で友人となった数人から、「あなた自身の国の歴史に向き合うことも大切ですよ」と何度か言われました。そしてその言葉通り、その後私は、旧日本軍の捕虜だったアメリカ兵たちの問題に取り組むことになり、20年近い年月が過ぎていきました。40%が死亡するほどの過酷な扱いを受けた捕虜たちは、半世紀以上が過ぎても、日本政府からも、彼らに強制労働を課した日本企業からも、謝罪を受けていなかったのです。奪われた尊厳と正義を取り戻すための彼らの闘いは、やがて私自身のものとなっていきました。元捕虜と一緒に活動し始めてから日本政府の謝罪を得るのに10年、日本企業の一社から謝罪を得るのに15年の歳月が流れました。今はほとんどが故人となってしまいましたが、かけがえのない友人となった元捕虜たちとの思い出はつきません。

かくも長い間活動を続けられたのは、元捕虜たちからのあふれるような友情があったことはもちろんですが、どんな時も励まし続けてくれたクーパー師、そしてさらに遡れば、メラメド氏との出会いがあったからだと思います。彼は生きることの意味を(彼の場合はその命を杉原氏によって救われたのですが)、自伝の中に書いています。父親に、著名なイディシュ作家の公演会に連れていかれた10歳のメラメド少年は、「無限に生きる唯一の道は、有限を超越する何かのために生きることです。そしてその何かとは、“理想”です」という言葉に打たれました。メラメド氏は、その後の人生をその言葉を忘れずに生き、つい最近日本から旭日重光章を受けました。

私にとってシカゴは、二人の子供を育てながら勉強し、メラメド氏とも出会えた以外に、もう一つ特別な意味のある場所です。メラメド少年と彼の両親は1941年にシカゴに辿り着きましたが、その地から間もなくフィリピンに派兵される運命にあったユダヤ人の若者が、レスター・テニーでした。レスターの部隊がマニラに到着して数週間後、日米開戦となります。米比軍は、本国からの援軍がないまま圧倒的な日本軍に抵抗して戦いましたが、翌年4月9日バターン半島で、一か月後にはコレヒドール島で降伏、米国軍史上最多数の将兵が捕虜となりました。レスターは「バターン死の行進」を歩かされた後、日本に送られ、終戦まで大牟田市の三井三池炭鉱で強制労働に就かされたのです。

終戦翌年の1946年に結成された元日本軍捕虜米兵の会は、63年間活動を続け、2009年に解散しましたが、レスターはその最後の会長を務めました。私とレスターは、今年の2月に彼が96歳で逝去するまで18年間、一緒に活動を続けました。前半は、失望とフラストレーションの多い年月でしたが、後半は、日本との和解活動が始まり、充実した日々となりました。

レスター・テニー氏と

サイモン・ウィーゼンタール・センターは今回の表彰で、私が、ホロコーストとユダヤ人に関する理解を日本人に広める努力をしたことに加え、元捕虜と日本人の和解に貢献したことにも触れてくれました。レスターの生まれ故郷でメラメド氏とともにその賞を受けながら、彼が生きていたならどんなに喜んでくれただろうと、思わずにはいられませんでした。

(このエッセイは、拙著『旧アメリカ兵捕虜との和解』を出版してくださった彩流社のサイト「ほんのヒトコト」に掲載されたものです。)

ヨム・キプール(贖罪の日)

エブラハム・クーパー師が語るヨム・キプール(贖罪の日)

ヨム・キプールは、ユダヤ教の新年 (今年は9月20日) から始まる10日間の贖罪が最高潮となる日です。

私たちは、全ての人々が前年の行動によって審判を受けると信じています。しかしその審判は、Teshuva ( 文字通り“戻る”或は“悔いる”こと) という美しい考え方によって加減されます。どういう意味かと言いますと、私たちは誰もが過ちを犯したり、判断を誤ることがありますが、そのことにより必ず罰せられる運命にあるのではない、ということです。私たちには、過ちを振り返り、これからはより良い人間になると誓うことで、元に戻り、変わる能力がそなわっているからです。

ですからヨム・キプールの日には25時間の断食をしますが、実際は喜びの日なのです。周りの人々に、そして神に、私たちの罪を赦して欲しいと頼むことで、より良く行動する機会がもう一度与えられると、信じるからです。

私たちは、「あなたの名前が『神の命の書』(これに名前を記されると健康でよい新年を迎えられる) に書いてありますように。」と、挨拶を交わし合います。

 

宗教への寛容に関するバーレーン王国宣言

9月13日、バーレーンの ナサー・ビン・ハマド・アール・ハリーファ王子は、サイモン・ウィーゼンタール・センターが開催したロサンゼルスでの式典で、父親の国王が発表した以下の宣言に、マーヴィン・ハイヤー師や他の宗教指導者と共に署名しました。

09/13/2017 – LOS ANGELES, CALIF: Bahrain’s Prince Nasser bin Hamad Al Khalifa and Rabbi Marvin Hier, the dean and founder of the Simon Wiesenthal Center, with interfaith leaders during the signing of The Bahrain Declaration on Religious Tolerance – authored by King Hamad of Bahrain at an historic event at the Beverly Wilshire Hotel. PHOTOGRAPH BY MONICA ALMEIDA

バーレーン王国宣言

“無知でいる限り平和は築けません。私たちは慈愛と恭敬のゆるぎない信条のもと、互いに学び、分かち合い、そして共生していかなければなりません。”

バーレーン王国 ハマド・ビン・イーサ・アール・ハリーファ国王

バーレーン王国では何百年もの間、異なる宗教を信じる者たちが、自らの信仰を行いながら互いに敬意を払い、平和に共生してきました。

私たちは、ここに、異なる宗教が平和に共存できた我が王国の何世紀にもわたる伝統的価値観を、他の人々にも見習って頂きたい例として提唱します。

1.宗教の信仰と表現
私たちは、今まで宗教が、人々の間に幸福をもたらし分かち合われるためのもっとも大きな源であったことに、感謝します。

国際社会は、宗教の信仰と表現が人類の基本的権利であると認めています。しかしながら、現在も、そして歴史を見ても、宗教は憎しみと軋轢を広めるための手段として使われたこともありました。

宗教が人々を救うためではなく、絶望を生み出すために利用されてきたのです。私たちは、宗教のあるべき姿と間違った姿を見分けることを学ぶことから、この問題への取り組みを始めます。そして、異なる宗教間の対話と知恵の共有を通してのみ、宗教はより深い理解と啓発につながると私たちは信じます。

私たちは、過激な思想のもとに憎しみと暴力を説き、軋轢の種を蒔こうとする行為は、神への冒涜であることを宣言します。

2.選択の自由
私たちは、神は人々に宗教の選択の自由を授けられたと信じ、神との本当の関係は強制されながら行う信仰からは生まれないことを宣言します。

よって私たちは、信仰の強制を強く拒絶します。

また私たちは、他者に害を与えず、法を遵守し、自らの選択に物心両面で責任を持つのであれば、すべての人間に信仰を行う自由があることを宣言します。

3.神の意志の解釈
私たちは、異なる宗教において神の意志の解釈に違いがあることを認めますが、正しい宗教は神の名のもとに罪のない人々に対する暴力を正当化することは一切ないと、信じます。神の名のもとに正当化する暴力は神の意志の達成ではなく、神への冒涜です。

よって私たちは、人々の良心に反した非道徳的な行為によって神の意志を果たすことはできないと宣言します。また私たちは、良識ある全ての人々に、女性・子どもへの虐待や性奴隷としての搾取、自爆テロや過激派思想の拡大などの恐怖を生み出す信仰行為を、拒絶することを求めます。

4.宗教の権利と責任
私たちは、神が、宗教的にも世俗的にも権力ある地位にいる者により多くを求めていることを、認めます。全ての宗教の信者が、共に集まって礼拝し、教養を身につけ、祝い、そしてそれぞれの信仰が求めている行為を行う権利を、与えられるべきです。

少数派・多数派に関わらず平等に宗教を守り、敬意を払うことは政府の責任です。何人も、信じる宗教が理由で、恐怖や羞恥、不安を煽られることや差別の対象になるようなことは、あってはなりません。権力ある地位にいる者は、個人が脅迫や暴力などの恐怖を感じることなく信仰を行うことができるよう、保証しなければなりません。

また、すべての宗教とそのコミュニティーは、過激な思想が中庸な思想より聖なるものでは決してないことを示す、特別な責任があります。

よって私たちは、協力と恭敬を育む包含的環境を作るため、私たち一人一人が積極的に行動していく必要があると宣言します。

5.信仰の希望
私たちは、神のご意志のもとに優しさと思いやりの行動を行うことで、世界に神の善を呼び覚ますことを、私たちの行動を通して子どもたちに教え示していくことを誓います。

私たちは、私たちを分断するものを拒絶し、その代わりに、誠実な人々が共に結束し、祝し、信仰を行うことができる世界のために行動していきます。そうすれば私たちは、信仰の大きな力を結び、全ての人がご加護を受け、愛と恭敬のもとに生きていくことができる平和な世界を築くことができるのです。

この地域(中東)から三つのアブラハムの宗教が生まれました。

そして、それらの信条は、この地を、それぞれ異なる宗教を信じる世界中の多くの人々の拠り所にしたのです。

よってわたしたちは、宗教を持ち、宗教を説き、そして人々に大きな影響を与える者として、宗教が全ての人々への祝福となり、世界平和の基礎となるよう、あらゆる努力をすることをここに宣言します。

信仰は平和への道を照らす

バーレーン王国 ハマド・ビン・イーサ・アール・ハリーファ国王
2017年7月3日

                         日本語翻訳;杉中亮星

ヒトラーが軽々しく使われる問題

軽々しく”ヒトラー”を使うメディアのトランプ攻撃はヘイトとの戦いに有害
マーヴィン・ハイヤー師、エブラハム・クーパー師
『The Hill」2017年8月29日掲載

©You Tube

1945年にヨーロッパ戦線で連合軍が勝利してから何十年もの間、鉤十字マーク(スワスティカ)以上の邪悪のシンボルは無く、アドルフ・ヒトラー以上に究極の民族抹殺者を体現した人物もいませんでした。

 その後の70年間、ヨーロッパでもアメリカでも、ナチスそして現在はネオナチが、ヒトラーの最終解決のヴィジョンを生かし続けようとしてきました。彼らは多くの場合、成功しませんでした。何故なら、欧州のほとんどの国が、ヒトラーが始めた第二次大戦で、ホロコーストで抹殺された六百万人のユダヤ人を含む何千万人もの人々の命が奪われた惨事を、記憶していたからです。そしてドイツが先頭に立ち、世界は、ヒトラー崇拝とホロコースト否定を違法とする厳しい反ナチス法を制定してきたからです。

それでもこの何十年、中東における反ユダヤ主義者は、ナチホロコーストが実際起こったことを否定すると同時に、イスラエル人を現代のナチスだと決めつけてきました。

最近まで、アメリカや他の民主主義国家では、ネオナチが政治の世界や大学キャンパス内の“尊敬される社会”のメンバーとなることは困難でした。主流のメディアが彼らの生々しいヘイトのメッセージを排除していたからです。しかしここ数年、政敵を中傷するためにナチスのイメージを大々的に使う現象が、右と左双方の陣営で見られるようになりました。

グローバルサイバー空間の時代、ソーシャルメディアにたけた新時代の人種偏見者は、フォロワー(特に若者)をリクルートするため、そして少数派を侮辱し、民主主義的価値観を冷笑するため、伝統的メディアをバイパスします。そして、アメリカ人同士が争い合い、ネオナチがシャーロットビルの町を練り歩くイメージは、ネットで同時放映され、四六時中ケーブルニュースで伝えられます。

これらの暴動が起こった後、サイモン・ウィーゼンタール・センターは、トランプ大統領が、白人至上主義者・ネオナチ・KKKと、シャーロッツビルの路上で彼らに反対した者たちを、明確に疑う余地も無いほどに区別しなかったことに、一貫して批判の声をあげてきました。シャーロッツビルの現場に、過激的な反ファシスト活動家もいたことは、全てのグループ、或は“多くの側”を道徳的に同一として一括りにした言い訳にはなりません。

そして今度は、ドイツの雑誌『Der Stern』がトランプ大統領をヒトラーに例えました。その視覚的イメージもメッセージも、間違いで、攻撃的で、危険です。

Stern誌の表紙は、民主的に選ばれたアメリカの大統領が合衆国国旗を身にまとい、「ジーク・ハイル」をしている姿を描いています。この表紙は、スワスティカや他のナチのシンボルを、党派やイデオロギーのために使用するという、礼儀も寛容も無視した最近の憂慮すべき傾向が辿り着いた結果といえるものです。

ヒトラーが描いたユダヤ人のいない世界を完成するはずだったナチズム、或いは全てのアフリカ系・ヒスパニック系アメリカ人を隅に追いやるか絶滅させようとさえする白人至上主義者やKKKと、反ユダヤ主義や人種偏見主義者に反対する人々を対等に扱うことは、決してできません。

ドナルド・トランプとホワイトハウスは国内外問わず、メディアと大衆から批難を浴び続けています。また、ホワイトハウスの経済担当補佐官ゲイリー・コーン氏もシャーロッツビルでの衝突に対して政府は更なる対応を行うべきであると述べました。しかし、新進のアメリカ人アーティストであれドイツの主要雑誌であれ、ドナルド・トランプを現代のヒトラーと表現することは完全に間違いであり、無視できるものではありません。

なぜなら、ドナルド・トランプはアドルフ・ヒトラーではなく、また、その事実はドイツ国民こそが他の誰よりも理解しているからです。

ドイツの人々は第三帝国が人類の残虐な歴史そのものであり、それ以上でもそれ以下でもないと理解しています。しかし現代のドイツのある者たちは、自己満足のために雑誌のカバーで「アメリカ人は自国にヒトラーを当選させた!」と論じてその真実をないがしろにすることで、ナチスの被害者の記憶を貶め、希薄にし、鉤十字マークが新しい世代に授けるべき道徳的歴史的メッセージを傷つけているのです。

それだけではありません。ナチスの歴史が正しく語り継がれなくなることで、過激な思想を持つ者が若者たちにナチスの考えを吹き込む余地を与えることになり、また、シャーロッツビルのヴァージニア大学で行われたたいまつ行進で見られたようなネオナチに居場所を与えることにも繋がるのです。

ナチス式敬礼を行うトランプという間違った描写を、誰も問題視出来ていないことも問題です。アメリカやドイツのメディア、民主党・共和党、ドイツの政治家たちだけでなく、学者やトランプのツイートにはすぐに反応するSNSユーザーからも、批判の声は上がっていません。

そのような沈黙は、このような戦略が繰り返し使用されることを確実にするだけです。そして案の定、それはもう起こりました。「Black Lives Matter」共同設立者のPatrice Cullorsは、『ロサンゼルス・タイムズ』にこう語りました。「私たちは、活動方針として、トランプとは同じテーブルに着きません。何故なら、私たちがヒトラーと同席するなどあり得なかったに違いないからです。トランプは、文字通りこの国の全ての邪悪の縮図です。」

私たちの国の舞台に躍り出て、社会を混乱させ続ける過激派は、アメリカのみが対処しきっと解決できる挑戦をしかけています。アメリカ大統領を尊大な狂信者と表現する代わりに、現代のドイツは、自らの国の歴史の圧倒的な重みを考えながら、彼ら自身が抱える様々な社会問題にフォーカスすべきです。

* マーヴィン・ハイヤー師はサイモン・ウィーゼンタール・センターの設立者・館長。エブラハム・クーパー師は同副館長・社会行動部責任者

                   日本語翻訳;杉中亮星・徳留絹枝