反イスラエル国連は是正されるか:日本の貢献

徳留絹枝

国連総会でのドラマ

6月13日、国連緊急特別総会のライブストリーミングを見ていて、その展開に思わずコンピュータの画面に釘付けになった。その日議論されていたのは “Protection of the Palestinian civilian population(パレスチナ市民の保護)” というタイトルの決議案で、ガザ・イスラエル境界線でパレスチナ人が数か月来 続けてきたデモ行動へのイスラエルの対応を、非難するものだった。それは、東エルサレムを含む占領地、特にガザのパレスチナ市民に対し、イスラエル軍が “過剰” で “不均衡” で “無差別的” な武力を行使していると痛烈に非難し、イスラエルがそのような行為を停止し、戦時における文民の保護に関する1949年ジュネーヴ第4条約に従うことを、要求していた。

国連においては、数の上で勝るアラブ・イスラム国グループと国内にアラブ系の移民を抱える欧州の国々も加わり、これまでイスラエルに対するこのような一方的な決議は当たり前のように採択されてきた。反対票を投じるのはイスラエル・米国と他の数か国だけというのがお決まりのパターンで、日本も多数側について反イスラエル票を投じるのが常だった。

しかしこの日起こったことは、イスラエルに関する限り、近年の国連では初めての展開だった。米国が、以下の内容を含む修正案を提出したのだ。

「ハマスは、イスラエルに繰り返しロケットを打ち込み、境界線で暴力行為を煽っている。ハマスが、市民を危険に晒す全ての暴力行為を停止することを求める。さらに、深刻な生活物資不足に瀕するガザ市民のために使われるべき資材が、イスラエルへの侵入を目的とするトンネルや、民間人居住地に向けたロケット発射基地などの軍事施設の建設に使われていることを糾弾する。」

米国修正案への賛否を示す電子表示版に各国の票が次々と表示されると議場はざわめき、議長が電話でどこかと話すなどして、なかなか集計結果が発表されない。そしてついに、賛成62、反対58(棄権42)の集計が掲示されると、イスラエル国連大使の顔がアップで映し出された。冷静を装い静かに拍手していたが、興奮と喜びは隠しようもない。ライブなだけに、議場の緊張とサスペンスが直接伝わってくる。

しかし最終的には、修正には2/3の賛成が必要という議事進行ルールにより、イスラエル糾弾のみの決議が成立してしまう。修正案に同意した日本も賛成票を投じた。それでも国連総会において、パレスチナ側の責任を問うことに賛成する国が過半数を超えたことの意味は計り知れない。最終的には反イスラエル決議は採択されたものの、拍手するパレスチナ代表の顔も心なしか浮かないものだった。

6月13日国連緊急特別総会の様子

この展開を、国連における大きな勝利と米国がとらえたことは、最近ヘイリー国連大使・フリードマン駐イスラエル大使・クッシュナー大統領上級顧問・グリーンブラット中東和平担当代表が、連名でCNNに書いた意見記事からも伺える。彼らはその中で、「6月13日、国連で素晴らしいことが起こった。これが国際社会のトレンドとなるなら、我々は、イスラエルとパレスチナの平和な未来に希望が持てるかもしれない。…平和は、それが現実に基づく時にのみ達成される。我々は国連でその兆候を垣間見た。流れが大きく変わろうとしている。」

しかしその後、この流れに危機を感じたと思われるアラブ諸国が発展途上国と共に、132国からなるグループを構成し、その代表には、国連加盟国ではなくオブザーバー国のパレスチナを選出した。数で勝るこのグループが今後どう動くのか、注目される。

国連と日本のメディアが触れなかったこと

国連総会で過半数の国が求めたにも拘わらず、結局その責任を問われないままに終わったハマスの行動とは、どのようなものだったのか。筆者の観察では、それらは日本のメディアでもあまり伝えられていなかったように思う。

1.市民による「平和の行進」として計画されたデモで、実際には、ガザを支配するハマスが女性や子供まで扇動し、何千人ものパレスチナ人を連日バスで境界線まで送り届け、暴動の危険に晒した。運転を拒否したバスの運転手は投獄されたとも、伝えらえている。

2.境界線のフェンスを破壊しようとした者たちは、突破後は近隣のキブツを襲撃していたであろうこと。暴徒がなだれ込んで起こすそのような襲撃で何百人もの死者が出る可能性があり、イスラエル軍は何としても彼らを境界線でくい止める必要があった。フェンスに近づいた多くのパレスチナ人が足を撃たれたのはそのためである。また死亡したパレスチナ人の大多数は、ハマスのテロリストであった。因みに、イスラエル空軍は「ハマスは皆さんを危険に晒そうとしています。境界線には近づかないように」というビラを、ガザの上空に何度か撒布していた。

3.境界線からイスラエル側に放たれた火炎凧や火炎風船は、1千件もの火事を起こし、その被害は何億円もの甚大なものとなった。焼け出された生態系が元に戻るには15年もかかると言われる。

4.死傷者が出た後も、ハマスは、世界のメディアにイスラエル軍によって殺害されたり負傷したパレスチナ人の映像を見せるため、ガザ市民を危険なデモに駆り立て続けた。軽傷を負った者には200ドル、重傷者には500ドル、そして死亡した者の家族には3千ドルを支払っていたことをハマスが認めたと報道されている。極め付きは、ハマスから2200ドルを受け取った親が、8か月の女児が境界線付近でイスラエルの催涙ガスを吸って死んだと嘘をついていたことだ。(子供は生まれつきの心臓疾患で死んだ可能性大)このニュースは日本を始め世界中で報じられたが、その後訂正記事を出したところは少ない。

5.ガザの若者たちを危険なデモに駆り立てているのは、イスラエルによる占領で彼らが未来に希望をもてないためと説明されがちだが、もっと根深い問題は、彼らが、ユダヤ人への憎しみを植え付け、殉教を称える教育を受けて育つことだ。学校で使用される教科書のさまざまな問題も指摘されている。

6.そのような教育を受けて育った者が、実際にテロ行為をはたらくと、自爆やイスラエル治安部隊によって殺害された場合は家族に、生き残ってイスラエルの刑務所に収監された場合は本人に、パレスチナ自治政府から一生にわたって報償金(サラリー)が支払われる。罪が重いほど(多くのイスラエル人を殺すほど)額は大きくなるという。その支払い総額は年間300億円を超えるが、多額のパレスチナ支援金を拠出してきた米国などが支払いを停止するよう求めても、自治政府は拒み続けている。 因みに、日本のメディアは、トランプ大統領がパレスチナへの支援を凍結している理由を、米大使館のエルサレム移転に反発したパレスチナへの報復だと伝え、これらの構造的な問題に触れることはない。

7.最後に、デモの目的として掲げられた“帰還”だが、パレスチナ側が求める、イスラエル建国時のパレスチナ難民約70万人の子供・孫・ひ孫まで含めた500万人以上のイスラエル国内への帰還は、ユダヤ人国家であり民主国家としてのイスラエルの壊滅を意味し、実現はあり得ない。ハマス指導者はそのことを知りながら、帰還を扇動している。また国務省の2015年の調査によれば、難民本人(難民の国際的定義による)で現在も生存するのは約2万人にすぎないということだが、オバマ政権はその結果を非公開にしていたという。米政府は、難民数に関する正確な情報を基に、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金を見直す方針だと伝えられている。人道的支援の停止は米議会にも反対があり、突然パレスチナ人を見捨てるようなことはないであろうが、難民が500万人(そしてそれは毎年増え続ける)という虚構を続ける形の支援ではなく、パレスチナの人々の尊厳ある自立に向けての支援になるであろう。

日本の貢献

先ごろバンコクで開かれた「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合」で、河野太郎外務大臣は議長を務め、日本政府が、これまで人材育成支援やジェリコの農産加工団地の開発促進などの貢献を続け、1993年以降のパレスチナへの支援総額は2千億円になること、UNRWA にも先般15億円の追加支援を決定したことなどを説明した。公式発表を読む限り、国連で過半数が賛成した“ハマスの責任追及”には言及しなかったようだ。

即ち、日本政府の姿勢には最近の国連での動きが全く反映された様子が無いということだ。さらには、パレスチナの人々への善意の支援金が、テロ活動に従事するグループに流れているという問題もある。これは、米国ばかりでなく最近オーストラリアも憂慮を示している。

日本には、長い年月パレスチナを支援してきた人々がいる。彼らのこれまでの活動を見ると、本当に頭が下がる。政府の支援もこれらの人々の支援も、中東和平を少しでも前進させることに役立って欲しい。そのためには、この問題に関する日本の国連政策や支援のあり方を包括的に見直す必要があるのではないか。そしてパレスチナを支援するNGOにも、現実をよく調査し、彼らの誠意が確実に伝わる活動を続けて欲しい。