ユダヤ教のお正月(ロシュ・ハシャナ)

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アゼルバイジャンのアリエフ大統領に面会したクーパー師
(Trend News Agency)

ユダヤ人、特に正統派(オーソドックス)の友人を持つと、彼らが守っているさまざまなユダヤ教の決まりや祝祭日について、自然に学ばせられます。その端的な例が安息日(シャバット)で、彼らは金曜日の日没から土曜日の日没まで一切の仕事をしません。車の運転も、電気を使うことも、もちろんコンピューターを使うこともせず、家族で過ごすのが安息日です。私の友人のエブラハム・クーパー師も、金曜日の夕方から土曜日の夜までは、メールを送っても返事はしてきません。

彼らが年間を通して大切にしている祝祭日について、説明を聞くのも興味深いことです。

ユダヤ教の新年を祝うロシュ・ハシャナはその年ごとに異なりますが、今年は10月3・4日(2日の日没から)です。そして10日目の10月12日が贖罪の日(ヨム・キプル)で、ユダヤ教徒は、過去1年間に自分が犯した過ちを反省し、傷つけた人々に赦しを請うのだそうです。その5日後の10月17日から1週間は、収穫を祝う仮庵の祭り(スコット)です。

クーパー師は、これらの祝祭日の意味を、私へのメールで説明してくれました。

「新年にあたり、私たちは世界の全ての人々の平和のために祈ります。これらの聖なる日々が示すパワフルな概念は、神が私たち一人一人に、変わり、成長し、過去の過ちを正し、そしてよりよい未来を創造する能力を与えてくれた、ということです。神は、完璧な人間などいないことを知っています。しかし神は私たちに、“Teshuva”(人間として潜在的に持つ可能性にできるだけ近づくこと)を、自分の意思で行う力を与えたのです。」

この一連の祝祭日に関し、クーパー師が書いたエッセイが、最近 Huffington Post に掲載されました。 


私は44年前、ユダヤ教の新年を当時のソビエト連邦で迎えた。冷戦たけなわの頃で、無神論国家を標榜するブレジネフ・コスイギン統治下の国において、信仰は殆ど許されていなかった。シナゴーグ(ユダヤ教の礼拝堂)やキリスト教教会や回教モスクの多くは閉鎖され、破壊されていた。

コーラルシナゴーグ(19世紀末モスクワに建設された)でのヨム・キプルは感動的だったが、同時につらい体験でもあった。ヒトラーとスターリンという二大独裁者の時代を生き延びた年配のユダヤ人たちは、アメリカから来た二人のユダヤ人の若者の姿を見て涙をぼろぼろこぼしながらも、外国人と親しげにして、監視しているに違いないKGBに逮捕されることを恐れ、私たちに近づいてはこなかった。

生涯の友人デビッド・コーニンスバーグと私は、ソビエト連邦アゼルバイジャンの陽光眩し首都バクーで、仮庵の祭りの祝日を過ごした。そこで私たちは、ナチスから逃れたポーランド系ユダヤ人から、2500年前のソロモン神殿崩壊の時代まで祖先を辿る人々まで、さまざまなユダヤ人に出会った。それでも、宗教を弾圧し全ての信仰を根絶させようとする共産国家の強大な力を感じずにはいられなかった。

歳月は流れて2016年、私たちを取り巻くのは劇的に変わった世界だ。“神が不在”だったソビエト連邦はもう存在せず、ほとんどの人々にとって“冷戦”という言葉は、歴史の選択問題の答えの一つにすぎなくなった。

しかし鉄のカーテンの暗い時代で、宗教と宗教指導者は往々にして、自由への闘争を照らす光と希望のかがり火の役目を果たしていたのだ。

2016年、宗教は、光と希望の源というよりも、抗争、分断、暴力、そしてレイプとテロさえも正当化するものと見られるようになってしまった。

サイモン・ウィーゼンタール・センターで働き始めて40年目を迎える私は、これまでの人生を、憎悪がもたらす危険性と世界各地の社会的不正義に関して、人々の認識を高めるために生きてきた。統計としてだけの歴史ではなく、記憶の教訓を選ぶよう訴え、邪悪な人間が成し得ることを決して忘れないよう警告してきた。そして何よりも、寛容と相互尊敬を促進するために、よき師とパートナーを常に探してきた。

そして私は幸運だった。ソ連のユダヤ人が信仰の遺産を取り戻すために国家権力に立ち向かうのを見ることができた。偉大なナチハンター、サイモン・ウィーゼンタールに出会い、彼から学ぶことができた。亡くなる少し前のローマ法王ヨハネ・パウロ二世を私室のチャペルに訪ね、彼の偉大さを知った。真の異宗教間対話の価値を体現したインドネシアの故ワヒド大統領を知ることができた。

興味深いことに、パートナーを探す旅は、私を再び、今は独立国であるアゼルバイジャンの首都バクーに連れ戻した。イスラム教徒が過半数を占める国だが、特筆すべきは、この国が、多文化と宗教の自由を受け入れているということだ。…アゼルバイジャンは、2016年を「多文化の年」と宣言した。…

憎悪とテロ、暴力への麻痺が蔓延する中で、若者が他者に“憎悪”ではなく“善”を見いだせるよう、異宗教間の対話を積極的に進めていくことが今ほど求められている時はない。


2016年9月30日、サイモン・ウィーゼンタール・センターとユネスコが製作したユダヤ人の歴史に関するパネル展「「People, Book, Land: The 3500 Year Relationship of the Jewish People with The Holy Land」がバクーで開催されました。それに先立ち、クーパー師はイルハム・アリエフ大統領に面会したそうですが、ソビエト連邦時代に、迫害を恐れながらその地でユダヤ教を信じ続けた人々を訪ねた44年前を思い出し、感慨深かったことと思います。