トランプの大胆な行動が、パレスチナをついに交渉の席につかせるかも
エブラハム・クーパー (サイモン・ウィーゼンタール・センター副館長)
トランプ大統領はパレスチナ自治政府指導者に明確なメッセージを送りました。イスラエルとの和平交渉に取り組もうとも、お互いに妥協をしようともせず、アメリカを、巨額の援助金を引き出すためのATMとして扱うな、というものです。
トランプ大統領のこのメッセージは、明らかにパレスチナ指導者とその支持者たちを動揺させました。
しかし、もしかすると、トランプ大統領の大胆で通常とは違うこのメッセージが、ショック療法のように作用して、パレスチナとイスラエルが新たな交渉を始めるきっかけになるかもしれません。もちろん実際にそうなるかは予想もできませんが、もしそれが起これば、大統領の過去の政策からの決別は、永遠に停滞し続けるかとも見える“和平プロセス”の歴史的転換点として、記憶されるかもしれないのです。
米国務省によると、アメリカは1994年から国際開発支援として、パレスチナに52億ドル(約5880億円)以上を提供しており、2016年にも、290百万ドル(約330億円)を供与しました。
トランプ大統領は明らかに、聖地(エルサレム)における現状を受け入れるつもりはないようです。
アメリカはまた、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)にも何十億ドルもの拠出金を提供してきました。この機関は1949年から、中東の数か国に離散したパレスチナ“難民”を支援していますが、2016年だけでも、アメリカ国民の税金から355百万ドル(約400億円)が拠出されています。また、55百万ドル(約60億円)が治安維持の経費として、追加でパレスチナに提供されています。
“難民”という用語には、70年前にイスラエルが独立したとき、その地を離れた人々の子どもや孫やひ孫たちが含まれています。
トランプ大統領は火曜日、「私たちはパレスチナ人たちに毎年何十億ドルものお金を支払いながら、感謝も尊敬もされない。彼らは、とっくに成立しているべきイスラエルとの平和条約を交渉することさえ、望んでいないのだ。パレスチナ人が和平に取り組もうとしないのに、どうして私たちは彼らに大金を払い続けなければならないのか」とツイートしました。
トランプ大統領は先月12月、エルサレムをイスラエルの首都として認めるという発表をし、また国連大使のニッキー・ヘイリー氏が国連への分担金カットを示唆しました。パレスチナへの支援金についてのツイッターはこのような出来事から続けて発せられたものです。
このようなコメントの結果、多くの政府、外交官、評論家(イスラエル人も含め)は、トランプ大統領は沈みゆく難破船の船長のようだと言うようになりました。
トランプ大統領を批判する人々は、彼のこのような無鉄砲な行動が、中東における和平プロセスと、ユダヤ人とパレスチナが二国家として平和裏に共存するという解決へのかすかな希望も、消し去ってしまうと主張します。
さらにもっと深刻な問題として、大統領の批判者は、アメリカがパレスチナへの支援金をカットすれば、資金不足に陥いったパレスチナ自治政府が崩壊する恐れがあると、言います。そうなればイスラエルは、何百万人ものパレスチナ人を支配するという、望みもしない大きな負担を抱え込むことになってしまうというのです。
しかし中東に関する限り、これまでの通常の知恵は、二国家共存という捉まえにくい解決法に、あまり進歩をもたらすことはありませんでした。逆に、汚職が蔓延するパレスチナ自治政府に毎年支援金が流れていくという状況を作りだし、それを維持する結果になりました。
また、こうしたアメリカの支援金は、テロリスト集団ハマスがガザで権力を掌握していることを問題視せず、無責任な国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を、2万5千人ものパレスチナ人に賃金を払う最大の雇用主にしてきました。
国連人権理事会やユネスコ、国連総会も全て、イスラエルを卑下し悪者扱いする国々に乗っ取られてきました。
また、国連とその関連組織は、イスラエルはユダヤ人が3千年にもわたって住んできた土地であり、キリスト教が生まれた土地であるという歴史を否定しました。これは、コロンブスやヨーロッパ人がアメリカへ上陸したずっと後に、ネイティブアメリカンがやってきたと言っているようなものです。
トランプ大統領のエルサレム首都宣言は、アラブ人やイスラム教徒による大規模な抗議、さらには新たなインティファーダを引き起こすだろうと、予想されました。しかし実際には、それを起こそうとパレスチナ・ヒズボラ・イラン・モスレム同胞団などが全力を尽くしたにも拘わらず、起きませんでした。
発生した抗議は大きなものではありませんでした。なぜなら、パレスチナの問題はアラブ諸国の優先課題からもはや外れているからです。例えば、エジプトや湾岸諸国は、彼らの生存を脅かしかねないイランの脅威から目を離すことができません。
イランの脅威以外にも、サウジアラビアは、世界がアラブ石油への依存を減らす中、若い世代の雇用を作り出すための新しい経済計画に取り掛かっています。これらはすべて、イスラエルの躍動的スタートアップ経済が生み出す機会に乗り遅れたくない、という新しいシグナルなのです。
トランプ大統領はエルサレムに関するスピーチで、国境や主権については触れませんでした。即ち彼は、ユダヤ教徒・キリスト教徒・イスラム教徒の聖地が集まる東エルサレムの旧市街地が、最終的にイスラエルの一部となるのか、将来のパレスチナ国家の一部となるのかに関しては、口出ししなかったのです。
しかし、トランプ大統領は2つのメッセージをパレスチナ人たちに送りました。
1つ目は、いまの現状では、和平へのプロセスは進まないということ。2つ目は、トランプ大統領が今行っていることが気にくわないのであれば、自分たちでイスラエルとの交渉に取り組むべきだということです。
そして、パレスチナへの支援金カットを示唆しながら、トランプ大統領は今もう一つメッセージを送っています。
現在のパレスチナ自治政府の予算から、(米議会の抗議にも拘らず)344百万ドル(約390億円)ものお金が、イスラエル民間人やタイラー・フォース[注1]を含むアメリカ人を襲ったり殺害したテロリストの家族への報奨金として、計上されています。これは毎年パレスチナが国際社会から受け取る支援金の、半分の額にのぼります。アメリカは、これ以上パレスチナのテロリスト活動を支援したくありません。
トランプ大統領はまた、中東問題解決のために創設されたものの今となっては明らかにそれを阻害している、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)へのアメリカの多額の拠出金についても、問いを投げかけるかもしれません。
アメリカから大量に支援金が流れ込んでくる限り、82歳のアッバース大統領は、イスラエルと平和を築くために歩み寄ることはないでしょう。
アッバース大統領は2005年に、2009年までの任期で選ばれました。しかし彼は決して大統領の座を離れようとせず、新たな選挙を行おうともしません。彼が和平実現のために何もしなくても、アメリカからの支援金を徴収し続けられる限り、彼が変わることを求めようとしても無駄に終わるだけです。
しかし、たぶんトランプ大統領のツイートは、アッバース大統領へ向けられたものではないでしょう。それはおそらく、現状にも指導者にも見放されていることを知り尽くしているパレスチナの次世代を、奮い立たせるためだったのかもしれません。
[注1]ウエストポイント陸軍士官学校を卒業し、アフガニスタンやイラクでの軍務の後、ヴァンダービルト大学ビジネススクールの学生としてイスラエルに研修旅行に来ていたタイラー・フォース氏は、2016年3月8日、パレスチナ人テロリストに刺殺された。パレスチナ自治政府は、一般パレスチナ人平均収入の数倍の報奨給付金を、そのテロリストの家族に毎月支給している。
(翻訳;杉中亮星)