大切なのは「歴史」ではなく「記憶」:サイモン・ウィーゼンタール・センターの取り組み

『第三文明』2019年6月号に掲載された、サイモン・ウィーゼンタール・センター  Associate Dean, Director Global Social Action Agenda の エブラハム・クーパー師へのインタビュー記事です。「歴史」を学ぶだけではなく、共感を伴った「記憶」活動が大切というメッセージに、彼の目指すものが溢れています。

米議会は人間の盾利用のテロリストに挑め

エブラハム・クーパー
サイモン・ウィーゼンタール・センター
Associate Dean, Director of Global Social Action Agenda

戦争が起こると、必ず罪のない一般市民も犠牲になります。しかし、軍が自軍の兵を弾丸から守るために民間人を人間の盾として使うことは、文明国家と国際法(1949年のジュネーブ条約・1977年の追加議定書・1998年の国際刑事裁判所ローマ規程)支持者からすると、戦争犯罪以外の何ものでもありません。

第二次世界大戦時、ヨーロッパやアジアでは、枢軸国が軍人を守り反乱分子を根絶するため、人間の盾を使用したとして非難されました。また、負けると分かりながら日本軍が戦った沖縄戦でも一般市民が激しい戦闘に使われ、10万以上の沖縄市民が亡くなりました。

サッダーム・フセインは、人間の盾の利用レベルを格段に高めました。1990-1991年の湾岸戦争前夜、フセインは、他の国からのロケット攻撃を防ぐため、西側諸国の市民を人間の盾として捕らえました。多くの捕虜たちがフセインと面会しているところを映像として映され、彼への直接攻撃を避けるために移動を共にさせられました。またある者は、軍施設や産業地域の近くに監禁されました。

最近では2016年に、ISISがファルージャにて捕虜たちを人間の盾として利用し始めました。Fox Newsによると、盾として使われたのは何百もの家族、つまり、地域に住む人すべてだったということです。USA Todayは、ISISのテロリストは、何組かの家族を病院に監禁していたとも報道しています。また、イラク政府と国連は、ファルージャでは少なくとも5万人の罪のない市民が捕らわれていたと推定しています。

このような歴史があるからこそ、今回米議会に提出された法案が重要なのです。共和党のテッド・クルーズと民主党のジョー・ドネリー両上院議員は、ヒズボラ・ハマス・パレスチナのイスラム系ジハード、ナイジェリアのボコハラムやその他テロリストグループによる人間の盾使用に対抗するため、最近では本当に珍しくなった超党派による法案を提出しました。

なぜ、今そのような法案が必要なのでしょうか。そして、それがどのような結果をもたらしてくれるのでしょうか。

ここまで例として取り上げてきた人間の盾は、どれも、戦いが激化した際や、抗戦での最後の悪足掻きとして使われてきました。

しかし現在の私たちは、人間の盾の使用を戦略の重要な柱と考える、イランに支持されたテロリストグループとの戦いに挑んでいます。この数か月、ハマスは、ガザとイスラエルの境界線で繰り広げる暴動に子どもたちを使用してきました。イスラエルの兵士が現場へ駆けつけ、子どもたちを見つけたとき、一瞬子どもたちを標的とすることに躊躇います。この罠により、すでにイスラエルの一人の兵士が犠牲になりました。

間もなく退官する米国連大使のニッキー・ヘイリーは、安全保障理事会や国連総会でハマスを非難してきました。しかし、国連加盟国は彼女と異なり、ハマスではなく、いつもイスラエルを非難するのです。これではハマスに、もっと多くの子どもたちを犠牲にさせるだけです。死んだ子供のイメージは、ソーシャル・メディアに使うには最適だからです。

イスラエルとの戦いの最初の頃、ハマスは、市民のインフラを利用してきました。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の学校にミサイルを貯蔵し、イスラエルに向けて発射するための場所として使いました。子供たちが砲弾の餌食となる中、ハマスは、市民の病院を格好の隠れ家として使用しています。そして、パレスチナの子どもたちは、イスラエルへ続くトンネルを掘らされている最中に命を落としているのです。

またユダヤ国家との戦いに備えて、UNRWAの学校で勉強する学生は、夏休みの間、実弾を使った訓練を受けています。やがて殉教者になる時はできるだけ多くのイスラエル兵を道連れにするために。

レバノン南部の状況はさらに深刻です。

ヒズボラは、レバノン南部の各地に10万を超えるロケットと軍の施設を散りばめています。これらの地域のすべてには、一般市民が生活をしています。イスラエル北部を攻撃しながら、レバノンの市民の間での犠牲を増やすことが、戦略です。国境を防衛しようとするイスラエルを非難する国連決議はすでにありますから、ヒズボラにとって、あと必要なのは、罪のない市民たちが犠牲になるストリーミングビデオだけです。

21世紀の今起きているこのような野蛮な出来事を世の中にさらけ出す法案は、歓迎すべきものです。これで国連も、やっと人道的被害を未然に防ぐ行動を始めるか、少なくとも誰がこのような犯罪を犯しているのか気付くのではないでしょうか。

サイモン・ウィーゼンタール・センターは、クルーズとドネリー両議員主導の法案に、民主・共和の両党から支持が増えていることを歓迎します。これだけでも、イスラエルやナイジェリア、そして命の大切さという私たちの価値観を私たちを滅ぼすために利用するテロリストに標的とされた全ての国と、アメリカは共に闘う、と伝える十分なメッセージになるからです。

(日本語訳:杉中亮星)

* クルーズ・ドネリー法案「S. 3257, Sanctioning the Use of Civilians as Defenseless Shields Act」は10月11日上院で可決されました。

先日エルサレムを訪問した杉中亮星さん

UNRWAはパレスチナ難民の再スタートを助けなかった。

エブラハム・クーパー師
マーヴィン・ハイヤー師

UNRRAと UNRWA、よく似た名前です。どちらも難民を救うために設立された国連機関です。一つは役目を終えて閉鎖されました。他方は、一時的であった問題を平和への巨大な障害物に変身させました。

第二次大戦とナチスによる欧州ユダヤ人虐殺が最大規模で行われていた1943年11月、国連(前身)は、枢軸国の攻撃から逃れた難民を支援するRelief and Rehabilitation Administration(UNRRA)という組織を設立しました。大戦終結後、UNRRAとその後継組織 International Refugee Organization (IRO) は、推定1,000万人もの難民を助けました。前例を見ないほどの大規模な人道的危機に、米国はどちらの組織にも最大の寄付国となりました。

ホロコースト生還者25万人あまりが “displaced persons (行き場を失った人々)” と定義され、戦後ドイツで UNRRAが管理する収容所で1947年まで暮らしました。彼らは家族も友人も住む社会も何もかも失った人々でした。地域組織の全ても破壊されていました。ポーランドでは、新しい人生を始めようとするユダヤ人が嫌がらせを受け、ポグロム(ユダヤ人狩り)で殺されることさえありました。生還者は絶望を味わいましたが、その後の全人生を難民でいようと思うほどは、決して絶望していませんでした。彼らは、ユダヤ人国家或いは米国・カナダ・英国・オーストラリアのような安全な民主国家で人生を再構築することで、やがて生まれてくる子供たちの将来を夢見たのです。誰ひとり、国連が彼らと彼らの子供や孫やひ孫まで永久に面倒を見てくれるなどと、期待することはありませんでした。

国連は、ホロコースト被害者と何百万人もの他の難民に対し、国連の支援は一時的なものであることを明確にしていました。戦後ドイツの補償プログラムさえも、ホロコースト生還者のみを対象としたもので、受給者はその資格を証明しなければならなかったのです。被害者としての資格は、誰かに受け継がれるべきものでは決してありませんでした。

世界のユダヤ人は自分たちの責任に気づき、行動を起こしました。American Jewish Joint Distribution Committee は、難民に食品や衣服を与え。ORT (ユダヤ人のための職業訓練団体) は、職業訓練やヘブライ語教育を提供し、Immigrant Aid Society (HIAS) も支援の手を差し伸べました。米国や英国、そしてドイツの英国占領区域には、難民が、アウシュビッツの解放から3年もしないうちに国連がユダヤ人国家として認めたイスラエルに移住できるよう、後押してくれる委員会が存在していました。歴史上最悪の犯罪を生き延びたユダヤ人たちが新しい人生を踏み出し、世界をよりよい場所に変えていく中、UNRRAとIRO は歴史の小さなエピソードとして、あっという間に人々の記憶から消えていったのです。

一方、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は、著しく異なる道のりを歩んできました。UNRWAは50万人のパレスチナ難民の人生の再建を助けるのではなく、被害を制度化してしまったのです。UNRWAの設立は国連の二つの決議に基づいています。国連総会決議194は、「故郷にもどり、隣人と平和のうちに暮らす事を希望する難民はそうすることが認められるべき」と定めました。これが、UNRWAの正式な設立を決めた1950年の決議302に繋がりました。UNRWAはそれ以降、パレスチナ難民の問題を解決するのではなく、延々と長期化させてきました。“難民”という地位を、次世代から次世代へと授与していったのです。68年が過ぎ、それは現在530万人のパレスチナ人に奉仕しています。

パレスチナ難民の苦難を軽減するという委託を受けたUNRWAは、しかし実際には、イスラエル人に対する扇動をプロモートし、存在もしない何百万人ものイスラエルへの“帰還権”を強調し(これはユダヤ人国家イスラエルを破壊する)、そしてイスラエルの国さえ描かれていない地図を使ったカリキュラムを採用、といったことを繰り返してきました。彼らの教科書は、(エルサレムの)嘆きの壁や(ベツレヘムの)ラヘルの墓や(ヘブロンの)族長たちの墓などのユダヤ人の最も聖なる場所を、イスラム教のみにゆかりの地であり、ユダヤ人たちが盗もうとしていると教えています。

UNRWAはガザでのテロ活動を手助けしています。2014年の抗争中、テロ用トンネル・武器庫・ロケット発射施設は、ハマスのメンバーが職員で教員組合を支配する学校と連携していました。UNRWAの学校は2018年5月14・15日、イスラエル境界線での暴動に生徒を参加させるため突然休校となりました。それはハマスが、流血の対決として計画したものでした。(実際ハマスは、米大使館のエルサレム移転と合わせて決行されたこれらの暴動で死んだ62人のうち53人はテロリストだったと認めています。)

ガザに住む180万人のうち140万人は、その殆どが本人も父母も祖父母もそこで生まれているという事実にも拘わらず、難民としてUNRWAに登録されています。“難民”の40%はヨルダン国民で、国民としての権利もサービスも全て享受しています。

計算してみてください。これらの人々の80%は難民ではありません。“難民”に関して現在使用されているすべての定義に照らし合わせた結果、米国は、その必要条件を満たしているパレスチナ人は2万人に満たないと結論付けています。

最後に、国連難民高等弁務官事務所は128か国で6千万人の難民を支援していますが、その職員数は7千人です。UNRWAは3万人を雇っています。

デヴィッド・フリードマン駐イスラエル米国大使が先ごろ、米国は今後UNRWAに拠出金は払わないと発表すると、いつもの常連が憤慨し、ドイツ・日本・英国・欧州連合などが先頭に立って救助に駆け付け穴埋めをする、という展開になりました。

トランプ大統領が和平を推し進めるにあたり、フラストレーションの核にあるのはUNRWAです。大統領特別アドバイザーのジャレッド・クッシュナーは、単刀直入で遠慮なく、しかし正確な評価を提供しました。UNRWAは現状を引き延ばし、腐敗し、非能率的で、そして平和に貢献していない、と彼はメールに書きました。

UNRWAに関する限り米国は正しいのです。パレスチナの人々を助ける方法は他にいくらでもあります。現代の難民は、ホロコースト生還者の気概から学べるかもしれません。彼らは、ユダヤ人の同胞と国連機関の支援を受け、驚くほど短期間のうちに被害者という衣服を脱ぎ棄て、廃墟と化した過去から本物の将来を築きあげたのです。

もうアラブ世界とパレスチナ人自身が、生活保護受給者という生業から脱皮し、死を美化するのではなく、生きることを大切にする将来を築く時ではないでしょうか?

*エブラハム・クーパー師はサイモン・ウィーゼンタール・センターの副館長
Global Social Action Agenda 担当責任者
*マーヴィン・ハイヤー師はサイモン・ウィーゼンタール・センター創始者館長

日本は中東で果たす重要な役割を明確に

エブラハム・クーパー師
テッド・ゴーバー博士

     

日本は過去25年にわたり、中東で重要な役割を果たしてきたが、それは主に、ヨルダン川西岸地区とガザに住むパレスチナ人の経済・社会発展への支援を通して、なされてきた。

日本が1993年以来、公衆衛生・経済成長・農業・教育・難民支援などのプロジェクトを通してパレスチナに貢献してきた額は1700億円にものぼる。これらの重要な支援活動は、20年余にわたり多くのパレスチナ人の生活の質を向上させることを助けてきた。

それに加えてこの数年は安倍晋三首相の指導と率先の下、日本の経済的・地政学的活動は飛躍的に拡大し、それは日本とイスラエル両国の安全保障と経済利益に寄与してきた。安倍首相のヤド・ヴァシェム国立ホロコースト記念館での歴史的スピーチも、世界のユダヤ人コミュニティーと日本の間の信頼レベルを高めることを助け、中東におけるさらに大きく、かつバランスのとれた日本の役割への、期待を膨らませた。

しかし、安倍首相が近年ベンジャミン・ネタニヤフ首相に示した友好姿勢が歓迎すべきものである一方、それは、国連における日本の対イスラエル公式ポリシーとは、鋭く対立するものである。入植地、境界線論争、今も続くガザでの対立などの幾つかの問題における日本の公けの外交姿勢は、日本ともイスラエルとも価値観を共有しない政権の姿勢に、より近いものである。

安倍首相のイスラエルへのポジティブな取り組みと、日本外務省のイスラエルに対する近視眼的で時には攻撃的でさえある政治的姿勢の、際立った違いには困惑させられる。外務省は、安倍首相のユダヤ人国家イスラエルに対する新しい前向きな取り組みに関して、首相官邸からまだ説明を受けていないのだと考える者がいても、責められないだろう。

外務省のイスラエルに関する立場は、日本とイスラエルが共に民主・自由市場経済国家として、利益と価値を共有している事実と、相容れないと気づくことも重要である。例えば、発展しつつある両国の商業関係を見てみよう。最初は低調なところからスタートしたが、近年は、日本とイスラエル企業間、特にハイテク、サイバーセキュリティー、健康・観光分野での関係は大きく開花している。 “日本は中東で果たす重要な役割を明確に”の続きを読む

北朝鮮の非核化と人権問題

トランプ大統領は、オバマ大統領がしたように、独裁者との取引のために人権をないがしろにするべきなのか。

マーヴィン・ハイヤー師:サイモン・ウィーゼンタール・センター館長
エブラハム・クーパー師:サイモン・ウィーゼンタール・センター副館長

聖書にはこのような話がある。賢者と評されるソロモン王が、居を共にする二人の女性に言い寄られる。二人はソロモン王に、自分こそが生まれたばかりの男の赤ん坊の母親であり、もう片方の女は、生まれてすぐに死んだ赤ん坊の母親であると主張しあった。

ソロモン王は、それぞれの弁を聞いてしばらく考えたあと、このように命じた。「剣をもって来なさい。生きている赤ん坊を真っ二つに斬り、体の半分をそれぞれの女に与えなさい。」

自分の息子をもう一人の女性に盗まれたと主張する女性は「お願いです、王。赤ん坊は彼女にあげてください。斬るようなことはしないで下さい。」と求めた。しかしもう一人の女性は「赤ん坊がどちらのものであれ、斬って下さい。」と言った。

ソロモン王は、人間が持つ倫理という本能と鋭い知見から「一番目の女に、殺さずに赤ん坊を渡しなさい。彼女こそが赤ん坊の母親だ。」と言った。

ソロモン王のような智賢を兼ね備えた大統領はいない。しかし、歴代の大統領は皆、ソロモン王でも悩みこむような重大な決定を迫られたことがあった。

トランプ大統領と北朝鮮の独裁者である金正恩との間で行われた、歴史的なサミットについて考えてみよう。サミットの表向きの目標は、北朝鮮の安全保障の代わりに、平壌政府が放つ核の脅威を取り除くことであった。サイモン・ウィーゼンタール・センターを含む人権団体は、トランプ大統領は、北朝鮮における宗教の自由や悪名高き強制収容所の封鎖など、人権問題も取り上げるべきだと主張した。

活動家たちは、何百万人もの自国民の人権を踏みにじるような国に、果たしてトランプ大統領は “体制の保障”を与えてもよいのかと問うた。大統領が、サミットで金正恩の悪事を問いたださないどころか彼を褒め称えたことに、深く失望したという声もあった。

しかし公平な目で見れば、トランプ大統領だけでなく先代の大統領たちもこれと同じ、またはそれ以上に劣悪なことをしてきたのである。 “北朝鮮の非核化と人権問題”の続きを読む