ラウ師「友でないものにも救いの手を」

エブラハム・クーパー師が、ホロコースト記念日に書いたエッセイです。

メイール・ラウ師「友でないものにも救いの手を

2017年のヨム・ハショア(ホロコースト記念日)、この日ユダヤコミュニティーは不安と懸念に包まれていました。

米国では、ユダヤの墓地が荒らされたり、コミュニティー・センターに脅迫が届くなど反ユダヤの事件が急増しています。

イギリスでも、政治の場で反ユダヤの思想が影を伸ばしています。

フランスではマリーヌ・ル・ペンが国営テレビの場にて、フランスはヴェル・ディヴ事件の責任を負う必要はないという発言をしました。

*ヴェル・ディヴ事件・・・1942年7月に13,000人以上のユダヤ人がフランスのヴェロドローム・ディヴェール競輪場にて5日間検挙され、その後アウシュビッツなどの強制収容所に連行された。

また、ネオナチグループから卍マークを落書きされたり脅迫電話を受けたりして、ユダヤ施設が閉鎖に追い込まれるという出来事も起きました。それも、ドイツではなく、スウェーデンでこのようなことが発生しているのです。

ある女性は「私の両親は、ホロコースト生還者です。このようなことを目の当たりにすると1930年ごろに逆戻りしたように感じます」と嘆きます。

イランでは、ホロコーストを否定し、イスラエルを壊滅できるミサイルを誇示しています。

それでは私たちユダヤ人は、自分たちのことだけを考えれば許されるのでしょうか。

メイール・ラウ師は首を横に振ります。
ラウ師は大戦後の8歳の時にイスラエルに辿り着いたホロコースト生還者です。

72年経った今、彼はイスラエルはシリアの人々に救いの手を差し伸べるよう唱えます ー例えシリアがイスラエルにとって友とは言えない関係だったとしても。

ラウ師は「これはシリアの人々にとってのホロコーストであり、今日に始まったものではありません。過去6年、彼ら/彼女らはホロコーストの中に生きているのです。化学兵器により何人もの市民が犠牲になっています。歴史上最も迫害されてきた国として、イスラエルは救いの手を差し伸べるべきです」と唱えます。

ラウ師だけではありません。イツハク・ヨセフ師も「シリアでの戦争はもう一つの小さなホロコーストです。70年前ホロコーストが起きた時、大勢のユダヤ人が虐殺されました。世界はそれを目の当たりにして、なお沈黙していたのです。迫害を受けていた私たちユダヤ人はこの沈黙を理解できず嘆きました。ジェノサイドはシリアであろうと何処であろうと、そして誰であろうと許される訳がありません。たとえ友でない者に対してであろうと」と語ります。

それでは、なぜラウ師はホロコーストという言葉を使うのでしょうか。

それはシリアで死にゆく子供たちの姿から、彼が8歳だった頃に見たホロコーストの闇を思い起こさせるからです。もちろん彼はシリアとアウシュビッツでの出来事を天秤にかけることができるとは思っていません。

ナチが起こしたホロコーストは武器を持たない人々の根絶を目的にしていたという点で類をみないものでした。ナチとナチの思想に賛同した国家によって、600万ものユダヤ人が迫害され、餓死に追い込まれ、虐殺されていったのです。

ラウ師がホロコーストという言葉を使う理由、それはホロコーストの”本当の目的” ーユダヤ人の命だけでなく、ユダヤの精神さえも根絶させることーを理解しているためです。

ユダヤの精神 “汝、血を流し苦しむ者に手を差し伸べよ(Lo taamod al dam réakha)”。ラウ師はイスラエルにシリアへの行動を主張することで、このユダヤの精神を想起させています。

ユダヤ人作家、故エリー・ヴィ―ゼル氏は語ります「ここではユダヤの同胞を意味する“akhikha”ではなく、すべての人を意味する“réakha”という言葉が使われているのです。その人がユダヤかどうか関係ありません。すべての人が痛みと恐怖ではなく、希望と尊厳を持って生きる権利があるということを示しているのです。」

ホロコーストを生き抜きイスラエルで暮らし始めた1945年以来、ラウ師は1日1日がナチやすべてのテロリズムから勝利を掴み取ってきた日々であると信じています。ホロコーストからの生還はすべてのユダヤ人にとって勝利である一方で、新たな始まりであると考えています。ナチが根絶やしにしようとしたユダヤの精神を受け継いでいかなければならないのです。

“汝、血を流し苦しむ者に手を差し伸べよ”

新たなヨハム・ショアを迎えた今、この精神こそがユダヤ人を輝かせてきたものであり、この精神こそがユダヤ人が忘れず心に持ち続けなければいけないものなのです。

                       (日本語訳:杉中亮星)

*「深淵より ラビ・ラウ回想録―ホロコーストから生還した少年の物語」
は、ミルトス出版社から刊行されています。